DOLLHOUSE〜虚ろな姫君〜-6
「ユリさんはここから逃げないの?」
「何処へも行けないし、死ねないのよ。もし、あの人たちに背けば、家族は殺されかねないから。あの借金がこんなことになるなんて思ってもみなかった」
ユリさんの事情はなんとなく察せられた。
真相の細部を聞いたところでどうしようもない。
「私もいくとこないの。同じね」
私は少し笑った。
「ごめんね。助けてあげられくて。」
「いいの」
私はユリさんを抱きしめた。濡れたままだったけどユリさんもぎゅうってしてくれた。
お風呂から上がったら、ユリさんが食事を出してくれた。
食べきれない程並んでいた。
パンもお肉も。丸ごとの果物がテーブルに飾られて、見たことないようなキレイなお菓子もあった。
「食べていいの?」
「うん。こういう贅沢だけは出来るのよ」
どれもこれも今まで食べたことないぐらい美味しい。
「ちゃんと作ったのは久しぶり。一人だとご飯なんかどうでもよくなっちゃうからね」
お腹いっぱい食べて、部屋に戻るとべたべたのベッドはきれいになっていた。
ご飯を食べている間に整えてくれたんだろう。
ふかふかのベットに私をそっとおろし、布団を掛けてくれた。
「お姫様みたい」
「そうね」
ユリさんの顔が曇った。
「少し眠りましょうね…」
ユリさんは部屋を出ていった。
ここには名前も時間もない。
私とユリさんとご主人さま。
それ以上は知らない。知っても意味がない。
何日なのか、もう分からなくなっている。
私は幸せだった。
こんなに穏やかに1日1日がすぎていくのは亡くなった父がいた頃以来の気がする。
することはなく。ユリさんは優しい。
が、それもご主人さまの来訪の前に崩れ去る。
私はご主人さまを見て火が付いたように泣いた。コレしか抵抗の方法を知らなかった。