テーブルの下-1
それは…
よく晴れた午後の事でした。
オフィス街の歩道に綺麗に並んで植えられたポプラの樹々はもう秋だというのに眩しいほどの緑に照らされて、その向こうを行き来する車の音さえ静かに思えました。
私はすでに見慣れたそんな光景さえも今日は何となく新鮮に感じながら、おなかが空いたなぁ。
もうすぐお昼だなぁ。
などと、思いながら眺めていました。
[ 西村…さん ]
私はこのＡ社で受け付けを勤める西村 茜といいます。
ここはまぁ、大阪に本社を構える大手電機メーカーの支社にあたるビルで一等地にそびえ立ったガラス張りのなかなか立派な社屋でした。
私たち受け付け嬢は常時二人で詰めておりますが、お昼など休憩を取る時などは二人とも席を外してしまうと引き継ぎできなくなるのでひとりずつ交代で立ち、その間は総務部の先輩社員が入ってくれるという事になっています。
それで、その男がやってきたのはお昼を少し過ぎた頃でした。
年齢にして、三十代後半ぐらい…
たしか取り引きのある部品メーカーの人だったと思いますが、一日に多い時には三百人を越える来客のひとりひとり…
よほどのイケメンでない限り覚えているわけもありません。
そしてその男はグレーのシングルがダブルじゃないかと思えるほど前がダブついていて、取り引き先の会社を訪れる時でさえ上着のボタンを外して現れる礼儀すらなっていない社員で、本来少しぽっちゃりした体格を隠すためにわざとゆとりのあるサイズをえらんだのか、あるいはダイエットに成功して少し痩せた分だけスーツが余ったのかも知れません。
いずれにしてもそんな事、私の知った事ではありませんがあいにく彼が訪ねた営業社員は席を外していた事と、この男が私のタイプではない事は確かな事でした。
私が彼の用件を営業部に取り次ぐと残念な事情だったので彼はおそらく近くの喫茶店かどこかで待って出直すつもりだったのでしょう。
そうして交代で昼食に出た私は声をかけられたのでした。
[ はい、そうですが… ]
私は彼をそれとなく覚えてはいたけれど、タイプじゃないし関わりたくもなかったのでわざと覚えてない風を装いました。
[ 今からお昼なんだね
もし、よければご一緒してかまわないだろうか？ ]
[ せっかくのお誘いですが、そういった事はお応えできない規定になっております
誠に申し訳ありません ]
彼が会社とどんな関わりの人間なのかは知らないけれどあまり邪険にもできないし、かと言ってお昼に付き合ってやる義理は私にはない。
私は適当に断ったつもりだったが男はなんだかんだ言いながら、行きつけのお店までついてきて私に向かえあわせに席についてしまった。