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無音
【失恋 恋愛小説】

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無音-1

今日も彼は私の名前を呼ばなかった。
気づくと「ねえ」と、呼ばれていた。

そのときは感じなかったことだが
あるとき友達がこう言った。

「彼さあ、どういう人か未だにつかめないんだよね。」
そのときはまったく理解できなかった。

でも今ははっきり分かる。
私もまったく理解していなかったのだ。

彼の言動、彼の性格、彼の心、すべてが理解できなかった。

私が好きでたまらないときに静かに冷静を保って
静かに時を刻みそのときをまっていた。

彼の心は静かに熱を失って
冷ややかに私の心を突き刺した。

いつから何をどのように思っていたのか。

私にはもう少し時間が必要だ。

難しすぎてたどれそうにない。

彼は私を愛していたのだろうか。それさえも疑う。
私は彼をちゃんと見ていたのだろうか。


誰か教えてくれないか。


今日も彼は私の五歩先を歩いた。
もう二度と隣には並んで歩けない。
後ろ姿がかっこいい。

私があなたを見るとき。
それはいつも後ろ姿。
声がどんなか、顔はどんなか想像してみた。

彼はきっとたぶん私を愛していたのだろう。


忘れていた。
笑顔で微笑み合えていたこと。
そっと私を抱きしめたこと。
いつも一緒にいてくれたこと。

あるとき旅行に行ったからとお土産を買ってきてくれた。
かわいいストラップ。
とてもやさしい人だった。

あった。
あれもこれもすべて私のためだった―――




遠く、遠くの向こうのほうに彼はいる。
今はゆっくり時が流れ
幻想か現実か分からないが
彼は元気にやっているだろう。



苦しみの渦から五年がたとうとしていた。
私の隣にいるのは君ではない。
不思議である。

死にたいほど辛かった苦しみが
悲しさが
悔しさが
今はまったくないのだから。

もう君の事を少しずつ忘れているのだ。

君はどんな人だっただろう。

きみはどうしているだろう。
私は幸せにやっているよ。


君はどうしているだろう…


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