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「花、堕ちる」
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「花、綻ぶ」-1

花見に行こう、と言い出したのは藤吉だった。

明日、客がひける昼間に、店は番頭に任せて行こうと千世を誘った。



藤吉と千世は夫婦になった。


藤吉が、奉公先の主人であり、千世の父親である弥兵衛に、千世と所帯をもちたいと言ったとき、弥兵衛はううむ、と唸り、少し黙った後に承諾した。


…そういう、運命だったのかもしれないね…。

ぽつりとそう溢した後、藤吉を見据えて、重ねて言った。

「幸せにしてやっておくれ」

弥兵衛の表情には、娘を手放す一抹の寂しさと、肩の荷が下りて安堵する様がみてとれた。


婚儀と同じくして、藤吉は藍善の出店を任されることとなった。


弥兵衛が何くれとなく、心を砕いてくれたお蔭で何とか商いも軌道に乗りつつある。


…何より、藤吉が家に戻ると、そこに千世がいるということが、奇跡のようで嬉しかった。




翌日は、花曇りが続いていたのが嘘のように、青々とした空が広がっていた。


藤吉と千世は店から一番近い、河原の土手に並ぶ桜を見に向かった。


籠を使って近くまで行く。

河原に着くと、桜は満開だった。

青空を背景に、薄紅色の花弁が咲き誇っている様は、夢のようであった。

既に幾人かは、敷物の上に色とりどりの飲食物を並べて、宴会を開いている。

藤吉は、千世の手を引きながらゆっくりと歩く。


「桜は満開だよ。青空に薄紅の色が映えて綺麗だ。分かるかい?……ほら」

そう言って藤吉は、千世の手をとり、掌を上に向ける。

すると、ひらひらと小さな花弁が千世の手を擽った。

千世は口許を綻ばせた。

その微笑みは、桜よりも美しくて、藤吉の胸を打った。


「おや、鴛鴦の夫婦の散歩だよ」

二人、手を取り合って進む様を見て、桜より紅い顔をした、花見客にからかわれる。


景色を映すことの出来なくなった千世を花見に連れ出した、藤吉の心意は汲み取れなかったが、千世は藤吉に手をひかれながら散歩を楽しんでいた。


不意に、幼い頃を思い出す。


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