春告鳥 3-4
結局、ホテルを出たのは10時を回っていた。
ファーストフード店で朝飯とも昼飯ともつかないハンバーガーを食った。
彼女が僕の財布を気遣ったのか、今度こそ自分で払おうと思ったのか、それとも本当にハンバーガーが食べたかったのかは不明。
ホテル代も払おうとしたのだ。そこそこつき合った後、ということならそれも有りだろうけど。
あの男に無性に腹が立った。
彼女は化粧ポーチをもっていて、キレイなおねーさん。
いや、化粧はしなくても綺麗なんだけどね。どっちかっていうとすっぴんの方が僕の好み。
僕はぼさぼさ頭の冴えない男。
かっちりしたスーツが仇になっているのはわかっているが、どうしようもない。
整髪料の一つ、手に入れることは容易かったが、また別の意味で目立ってしまいそうなのでやめた。
二人並んで他愛のない話をしながら川沿いの道をあるく。
風はまだ冷たい。
並木に紛れた桜の蕾は確かに膨らみつつあって、もう少し暖かくなったら咲くのだろう。
春告鳥。鶯だったよな。梅に鶯。
コイコイ?来い来い。恋恋?
暴走ぎみの思考の中で彼女と重なる。これは吉兆だから。
「あれ、大家さんじゃないかな。」
前方から来る自転車。
「あ、ホントだ。とうしよう?」
「コソコソしなくて良いのでしょう?」
夕べ彼女が言ったのだ。
アパートの住人に僕らが付き合いはじめたのを知られてもかまわないと。
「…はい」
彼女は笑って応えた。
前方から来た大家さんも僕らに気づいたようで自転車から降りた。
「あれまあ…」
美里さんはぺこりと頭をさげた。
大家さんは驚いたように僕らを見比べた。
「つかまえましたよ」
そう言いながら手をつなぐと、美里さんが真っ赤な顔で僕を見た。
僕から言い出すとは思わなかったんだろう。
僕の生活サイクルは大家さんに知られているので、この状態は普通にしていたら、ない。
誤魔化しようがない。
「本当に…?その格好ってことは謀ったわけではなさそうだね」
謀った……。
「どうしてそう、みんな人聞きの悪いこというんですか…僕の敬遠されがちな事情は知ってますよ。あれ?食いつかない理由、でしたっけ?」
「いやいやいや…ついね。いじめられたら言っといで。おこってあげるからね」
大家さんは笑いながら美里さんに向かってそういった。