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コンビニ草紙
【理想の恋愛 恋愛小説】

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コンビニ草紙 第九話-1

「…で、どうでした?コンビニ。」
「へ?あぁ、なんだか色鮮やかでしたね。」
「色鮮やか?」
「ええ、色んな色の物がたくさん散らばっていて…いつも古い物に
ばっかり囲まれているんで、新鮮な感じがしました。」


色鮮やか…。いつも利用しているけど、そんな風に感じた事は一度もない。
ただ便利で、ごちゃごちゃ物があって、そこから自分の必要な物を買うだけの
所―。
初めてコンビニを利用した時の事を思い出そうとしたが、うまく思い出せなかった。
私も、初めて入った時は、商品が色鮮やかに見えたのだろうか…。

「そうなんですか。あと、ずっと聞きたかったんですけど、何で女性誌なんて見てたんですか?
職業柄のリサーチとか?」
「まさか。何となく一番色が多い場所だったので。何となくすよ。」
そう言うと、彼はにっと笑ってみせた。
ネコみたいな笑顔。
このつかみ所のない笑顔に私は惹かれているのだろうか。
「何となく…ですか。色鮮やかなんて、やっぱり藤本さんは物の見方が他の人と違う感じがします。」
「他の人?そうすかねぇ…。他の人っていうのがよくわかりませんけど、みんな違うところがあるから面白いんじゃないすかねぇ。りょーこさんも私から見れば違う感じがしますよ。」

そう言うと、じっと大きな目で見つめてきた。
なんだか全てを見透かされているみたいで、緊張した。
確かに他の人っていうのは、私が考えている世間一般の人で、
彼から見たら私はまた変わっているのかもしれない。
自分の言った言葉がなんだか軽率な気がしてきて、視線を逸らしてしまった。

「…りょーこさん、ちゃんと立てますか?」
「えっ?あ、はい。もう大丈夫です。すみません…。」
「なんだったら、おぶさりましょうか?お家まで。」
「え?え、大丈夫です!そんな、一人で歩けますよ。」

突然の彼の申し出に声が裏返る。
恥ずかしいところを見られたあげく、おんぶされるなんて本当に恥ずかしすぎて死んでしまいそうだ。
色々な事が短時間に起こりすぎて、すっかり酔いも覚めてしまった。

「…そうすか。じゃあ家まで送ります。夜道に一人で鼻歌まじりで歩いてるのは危ないすから。」

本当に恥ずかしいところばかり見られてしまっている。
なんで私はサヤカみたいに気になっている人の前で上手く立ち回れないのだろう…。
本当に自分のタイミングの悪さを呪う。

「すみません…。じゃあお言葉に甘えて…。すぐそこのマンションですから。」
「コンビニの隣なんすね。」

彼は私の隣より少し前を近すぎず、遠すぎない距離でひょうひょうと歩いていく。
着物から樟脳(しょうのう)とお香のような香りがする。
なんだか異様に落ち着く気分になる。
そんな事を考えていると彼が立ち止まった。
ぼーっとしていたので、彼の肩にぶつかりそうになる。


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