投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

tear
【青春 恋愛小説】

tearの最初へ tear 5 tear 7 tearの最後へ

tear-6

「ぐすっ…ぐすっ…。」
私の鼻をすする音だけが、静かな部屋の中に響く。私はまだ隼人の胸の中にいる。彼の胸は私の涙でいっぱいで、ひんやりと冷たくなっていた。
「隼人…」
私は彼の胸の中でつぶやく。…凄い鼻声だ。自分でも笑っちゃうくらい。
「…ん??」
隼人の口調は柔らかい。そんなちょっとした事で私は再び泣き出しそうになった。
「私頑張ってみる…。」
かすれた声で言った。
「…そっか。分かってくれてありがとう。」
そう言って彼は私の髪を撫でた。…こんなに迷惑かけた後でも、隼人は優しい。私は何だか悔しくなった。
「でね…最後に一つだけ、お願い聞いて欲しいの…」
「何??」
隼人は不思議そうに尋ねる。
「…キス…して。」
かすれた声で私はつぶやいた。
「えっ…??何で…」
隼人はビックリした様子で、私の顔をまじまじとみつめる。
…何でと聞かれて私は戸惑った。…私自身も何故こんなことを言ったのか分からなかったからだ。最後に彼の温もりが欲しかっただけかもしれないし…あるいは…。
「分かんない。…けど凄くして欲しいの。」
私の声は震えていた。今の私、顔も心も言葉もメチャクチャだ…
「分かった。」
その返事の次の瞬間。隼人の顔がそばにあった。私は急いで止めに入る。
「ちょ、ちょっと待って。」
彼は何で?と聞き返す。
「顔洗ってくる。…グチャグチャの顔にしょっぱいキスじゃ、シャレにならないもん。」
私はちょっぴり笑ってみせた。


「お待たせしました。」
私は彼の前にチョコンと座る。無意識に正座の格好をとっていた。
「足くずしなよ。」
ぷっ…と隼人が笑い声をもらす。
「あ…本当だ。」
私も笑い返した。


…それからしばらく静寂な空気が私達を包み込んだ。
チラっと隼人に目をやると、隼人はとても優しい顔をしていた。
…不思議。別れの前なのに、凄く穏やかなんて…。
…そして静寂の末。不意に彼の手が私の頬に伸びた。
「雪…。」
名前を呼ばれて、私は恐る恐る彼を見上げる。
優しい目…怖くなんてない。
隼人は私の腰を抱き寄せた。
とくっ…とくっ…
鼓動がどんどん早くなっていく。
いよいよだ…。
私はゆっくりとまぶたを閉じた。
次の瞬間。彼の吐息と共に、かすかに唇が触れ合う。
そして、その感触はすぐに離れていった。
…これだけ??私が目を開けようとした、その時。
離れかけた唇が今度は深く重ね合わせられた。
上唇も下唇も交互にとらえられる。
…彼に触れられるところ全てが熱い。私はたまらず彼の腰に手を回した。
…何度か唇を探られた後、彼はゆっくりとその感触を離す。
そして、私達はお互いにじっと見つめ合った。私は、これで終わりなのか、まだ続くのかわからなくて、彼の瞳にその答えを求める。…私がもどかしそうな顔をしていたせいだろうか。
彼がフッと微笑んだ瞬間、彼の唇は再び私に落ちてきた。
…そして唇の感触を何度も確かめられる。
とくっ…とくっ…と胸は益々熱くなった。頭がポーとして、何もかも熱かった。時々、微かに囁かれる雪…と呼ぶ声に、私の胸はギュゥっとしめつけられる。静寂な部屋の中、ここだけがとても熱い。

私がそっと瞳を開けると、隼人も私を見ていて、必然的に目があった。隼人は何か物言いたげな目で私を見ている。…胸に切なさがこみ上げた。頬を涙がつたう。



tearの最初へ tear 5 tear 7 tearの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前