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由里子と先生
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由里子と先生2〔特別編〜茜色の保健室で〜〕-1

6時間目の数学の授業中のことだった。

由里子は、担任でもある数学教師の佐々に、前に出て黒板の問題を解くように、指名された。

由里子が自分の席を立ち、問題を解くために黒板の前に出ようとした時だった。

ガタンッ、
ガラガラガシャ――ン!

一瞬、教室にいたすべての生徒達の動きが止まり、音のした方向へと一斉に生徒達の視線が集中した。

机に何かがぶつかり、机ごと倒れたような大きな音――――。

音の発信元は由里子だった!

最前列の男子生徒が、不注意で落とした消しゴムを、とっさによけようとした次の瞬間、隣の机の足につまづき、転倒してしまったのだ。

その際、運の悪いことに、由里子は机ごと前のめりに転んだために、受け身の姿勢を取ることができず、そのまま倒れた机に頭をぶつけてしまった。

その場に倒れ込んだ由里子は、右のこめかみの上あたりに鈍い痛みを感じ、起き上がることができなかった。

間を置かずして、目の前に黒い薄手のカーテンがスーッと降りてきたような感覚を覚え、由里子は意識が遠のく気配を感じながら気を失ってしまった。

しばしクラスの中は騒然となった。

クラスメイト達の中には、何が起きたのか…と口々に声を掛け合うものや、その瞬間を目撃していた生徒の中には、心配して席を立ち、由里子の元へ駆け寄る者もいた。

ざわざわと教室内に不協和音が立ち始め、授業の中断が余儀なくされた時だった。

佐々がすばやく倒れたままの由里子に駆け寄り、由里子の体をフワッと抱き上げた。

『おーい、みんな聞けよ〜!俺が戻るまでは騒がず自習だからな。学級委員、そこにあるプリントを配ってみんなにやらせてくれ!』

事の重大さにそわそわしていた生徒達もいたが、慌てずにいつも通りの口振りで指示を出した佐々の対応で、クラス内は除々に落ち着きを取り戻し始めていた。

教室を出ると、佐々は目を閉じたまま自分の腕に抱きかかえられ、体の重みを預けたままの由里子を保健室へと運んだ。

佐々はこの時、一瞬だったが、不謹慎にもこのまま由里子をどこかへ連れ去ってしまいたい衝動にかられ、自分でも驚いた。

保健室では佐々の腕からベットへと由里子が移され、佐々から養護教諭に一通りの事情が説明された。

年配でベテランの養護教諭は由里子を診て、今現在呼吸も脈拍も安定しているので、さほど心配はいらないと言った。

まだ体の方はショック状態から抜け出せていないため意識は戻っていないが、しばらく様子を見守りましょう…と心配そうな顔をして由里子に付き添っている佐々を元気づけた。

ぶつけた右の頭部を氷枕で冷やし、しばらく安静にしていると、由里子はまもなく意識を回復した。


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