魔法使いの告白 8-1
バスローブを羽織ってバスルームを出ると、坂井さんはベッドに座って仰向けになった身体を起こした。
スーツの上着は脱いで、ネクタイも外している。
ワイシャツのボタンは全部外し、胸元が見えている。
笑わないで私の方を見ている。
そうしていると目元がきつくて怖い印象になる。
うわ。ちょっと凶悪そう?
でも、そんなことを思えるくらいにはリラックスしていた。
別に怒ったりしていないのはわかる。容姿端麗、笑わない坂井さんは冷たい印象になってしまうみたい。
アパートで会う時の坂井さんを知らなければ、いくら格好良くても私は近づかない、いや、近づけないタイプだと思う。
でも本当はとても優しい人なのにね。
私は真っ直ぐ坂井さんの許へ進んだ。
「本当に良いのですか?」
私を見上げ、真剣な顔で坂井さんが言った。
「はい」
私は笑って、坂井さんの隣に座った。
不思議なぐらい迷いがなかった。
坂井さんの腕が伸びて私の肩を押えると、ゆっくり後ろへ力が込められる。
私は抱きしめられてベッドに倒れ込んだ。
「いい匂いがする。」
耳元で声がする。
優しくくちびるが触れていく。
私は目を閉じてその感触だけを追いかける。
ちゅっ。
下唇を吸われて音をたてた。
浅く、深く。
「ん…はぁっ…」
舌を絡めてくる。
ちょっとビールの味がする。
「んんっ…」
大きな手がバスローブをくつろげる。
襟が肩から腕へと落ちてゆく。
くちびるが離れて、坂井さんが頭をあげる。
露わになった胸。
視線を感じて、私は横をむいた。やっぱり、なんだか恥ずかしい。
「とても綺麗だ…」
「そんなことないです…胸ないし…」
両手で乳房を覆うように隠す。意味がないのは分かってるけど。
坂井さんは私の頬に手を添えて正面に向けた。
「綺麗です。もっと自信もって。」
私の頬を親指の腹で撫でながら微笑みかける。
そんなことないよ、とか否定はしない。でも、否定されたらそれはそれで嘘だし。
でも坂井さんの柔らかな表情を見ていたら、コンプレックスが溶けていく。