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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-80

ぶっきら棒に温かく観光客に声をかけるおばちゃん、店先で昼寝をするおじさん、暑いからと言って昼間から店仕舞をしてしまう店主…東京にはない緩い感覚がここには確かに存在していた。
昔は8時以降に開いている店など飲み屋くらいしかなく、飲み屋でも8時には店を閉めるところもあった。土日に営業している飲食店も少なく、観光名所に行ってもなかなか食事にありつけないこともあった。
今では見慣れたチェーン店も増え、どこの土産屋も夜遅くまで営業している。土日に営業しない店は減り、旅行客の増員と共に、本島からの移住者も増えた。企業の進出も促され、街並みは綺麗な都会風に整備された。
潮風に当たって痛んだコンクリートをそのままにしている店など殆ど目に付かなくなり、店先は綺麗に整頓されている。
観光客にとっては便利になったのだが、それと同時にこの街の情緒も失われていくような気がして、彼女はなんとなく寂しさを覚えた。しかし、こうして観光客が増えていくことや、大手企業が進出してくれれば、その土地も潤う。そこから新たな文化が生まれることもあるのだろうと思いながら、普遍的な時の流れに、どことなく切なさを感じていた。

目的のステーキハウスは、船の船室をイメージした重厚な木材で統一された、沖縄では昔から知られる店の1つだ。昔は沖縄で食事と言えば、この店くらいしかなかったそうだ。この店のウリは、目の前でパフォーマンスしながら焼いてくれるステーキだ。勿論、焼き方も自由に選べる。
東京では特別な事があってもなかなか鉄板焼きの店になど入らないが、沖縄のこの店なら、割とリーズナブルに食事を楽しむことができる。それに旅先では財布の紐も多少緩くなるものだ。

2人は食前にシャンパンを頼み、各々好きなコースを注文した。
シャンパン1本に赤ワインを半分空け、ゆっくり食事を済ますと、残ったワインをお持ち帰りにし、2人はほろ酔いでその店を後にした。

12時を過ぎた国際通りは、少し減りはしたものの、まだ人で溢れていた。
近くのコンビニで少しお酒を買い足し、部屋に帰った頃には1時近くになっていたが、2人はベットの上に乾き物を並べ、ささやかな2次会を始めた。

「海に入れなくても、沖縄って楽しいね。
 明日はゆっくり起きて、公設市場でしょ。そこでビール飲んで、上手い飯食って、それから阿嘉島かぁぁぁ…楽しみだなぁ…海キレイなんでしょ?」

哲也は初めての沖縄旅行に胸を躍らせ、子供のように次から次へと質問を繰り返した。
こんなにあどけない彼を見るのは千鶴にとっても初めてだった。少年のように目を輝かせている哲也を見ながら、彼女も至極幸せな気持ちになっていた。





次の日、チェックアウトぎりぎりの時間まで2人はゆっくり寝ていた。
ロビーには宿泊客の姿は既になく、閑寂(カンジャク)としたエントランスは、沖縄の倉皇(ソウコウ)とした長い夏の終わりを告げ、秋の訪れをしっとりと受け入れているようだった。

 昼食は公設市場で新鮮な魚介類を食べる事にしていたが、ホテルから公設市場までは歩いても15分かからない所にある。チェックアウトを済ませても、まだお昼までは時間があったので、2人はフロントに大きな荷物を預け、観光客で賑わっている国際通りを散策する事にした。

 哲也は会社の人への土産の菓子類を何点か適当に選び、早々に必要な買い物を終わらせた。

 この旅に2人で来ている事は会社の者には内緒だ。2人が交際している事もまだ秘密にしている。別にやましい事をしているつもりはないが、小さな会社の中で悪戯に2人の事を話すつもりは、哲也にも千鶴にもなかった。これは、どちらからともなく、2人で決めた事だ。


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