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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-59

 杉山の目の前に座るように高沢に目配せされ、彼は、初対面の役員の前に正座した。
「食事の時くらい楽にしてください。内藤君。」そう言うと、杉山は大袈裟に座椅子の背もたれに寄りかかった。思ったより、話しやすい雰囲気を持った人だった。
 程なくしてビールと食事が運び込まれ、乾杯が済むと、杉山が慎治に最近の仕事のことなどを熱心そうに質問してきた。慎治はその質問に丁寧に答えた。

 料理が終盤を迎えると、杉山が仲居に料理を全て運んでくるように指示した。
 杉山は慎治の話に真剣に耳を傾け、慎治のグラスにビールがなくなると、すぐに継ぎ足してくれた。

 彼には目下の自分よりも、この目の前の役員の方が、自分に気を使っているような気がして、少し可笑しかった。





 料理が全て運ばれてきて、仲居が部屋を後にした時、杉山は静かに口を開いた。
「秋口に高沢君から聞いた話を覚えていますか?」丁寧な口調で杉山は言った。
彼は部下にも丁寧な対応をすることで、定評のある人物だったが、噂は本当だと慎治は実感していた。
「はい。」彼は確認するように高沢を見た。
「僕は、高沢君から君の話を聞いて、是非、君を推薦したいと思っているんですよ。」 そう言いながら、慎治の空のグラスにまたビールを継ぎ足した。
 この席でビールを一番飲んでいるのは自分だなと思いながら、グラスを軽く斜めにしてそのビールを受けた。
「アメリカに行く社員は、今までミドルクラスが多かったんだけど、今回はいつもとちょっと違っていてね。全世界から若手が選ばれることになってるんだ。
 そうだ、今回の、その、詳細は聞いているのかな?」
 杉山はチラッと高沢を見て、高沢が首を横に振るのを確認すると続けた。

「全世界の若手がアメリカに集められて、一つの大きなプロジェクトを立ち上げるらしいんだけど、その細かい内容に関しては、私たちもまだよく知らないんです。今、わかっているのは、各国からプランナーとエンジニアが各1名ずつ選ばれるということと、国内で候補者を各5人ずつ選んで、その最終選考は総本社の人間が執り行うということだけです。国内の選考に参加するためには、役員の推薦が必要で、各役員が推薦した者だけが今回の対象者となります。
 そこで私は内藤君を推薦したいと思っているんですよ。
 もしかしたら、営業の人間も行くことになるかもしれないらしいんだけど、それはまだ決定ではなかったと思います。
 もしかしたら、何か新規事業に手を出すのかもしれない…。これは、あくまで噂ですが…。そんなこんなで、プロジェクトの概要も良くわからないから、何年くらいになるのかわからないけど、1年や2年じゃないことだけは確かだと思ってください。
 10年前後だと思っていてもいいかもしれない。
 すみません。私にもわからないんです。ただあまり短い転勤にはならないと思います。
 まぁ…そんなこともあって、というか、今までの前例を考えると既婚者の方が有利なんだけど、今回は若い世代だから独身者もアリかなぁ、と僕は考えてます。
 それに、そんな理由で内藤君のような優秀な社員のチャンスがなくなるというのもどうかと思うし。
 僕は内藤君のビジネス上の実績を大いに評価しているからね。
 …それに、これは関係ないけど、内藤君は私のかわいい後輩だし。
 ねッ高沢君。」
 杉山は悪戯っぽい笑顔を見せて、推薦してもいいかと付け加えた。
「推薦していただけるのであれば、是非そのご期待に沿うような仕事をしたいと思っております。」慎治は丁寧に頭を下げながら言った。

 高沢も慎治と同じ大学のような口調で杉山が言ったので、なんとなく高沢を見やったが、高沢は話し手である杉山の方を向いたままだった。高沢に今まで大学の話をされたことがなかったので、同じ大学なのか気になったが、高沢が無反応なのを見ると、彼の興味はすぐに自分のアメリカ行きの話へ移った。


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