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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-35

 千鶴に出会った時も、彼はすぐにその若い彼女と別れることを決意した。
 他に好きな人ができたことを彼女に伝えると、目の前の若い彼女は、ただただ泣きじゃくった。そんな彼女に、彼は押し黙って「ごめん」と呟くことしかできなかった。そして、早くこの時間が流れてくれればいいと切望しただけだった。

 ともあれ、その彼女とはすぐに別れることができたが、なかなか千鶴との距離は縮まらなかった。
 英会話教室の受付の女性とその生徒であれば、どちらかがその気にならなければ話すこともそれほどないものだ。
 彼もどうすれば、千鶴に自然に近づけるものか思案していたが、なかなかいい案は浮かばないでいた。



 ところが独りで悶々と千鶴への想いを募らせていたある日、彼女と近づくチャンスは、彼の些細なミスから生まれることとなった。

 いつものようにレッスンを済ませ、受付の千鶴に必要以上に優しい笑顔を振りまきながら、後ろ髪を引かれる思いで教室を後にした慎治は、2駅先の自分のマンションに戻った時、鞄に入れていたはずの大切な資料がないことに気がついた。

 次の日はその資料を持って、直行で支社へ行くことになっていた。
 会社から持って出た記憶はあったが、その先の記憶がない。
 そもそも、鞄から出した記憶がなかったのだ。
 英会話教室でも鞄から出した記憶はなかったが、教材を取り出すときに無意識に出したことは考えられた。
 そこで彼は藁にもすがる思いで、授業を終了してしまっている英会話教室へ電話した。
 運良く電話は繋がった。
 要件を話すと、その資料と思われる封筒が教室に置いてあるという事だった。
 対応してくれたスタッフに、明日必要な資料だから取りに戻ると彼が伝えると、そのスタッフは、慎治の住んでいる駅を確認し、同じ駅に住むスタッフがいるからそのスタッフに持たせる事を提案してくれた。
 入学時に登録した受講生データで慎治の住所を確認し、たまたまスタッフの中にその住所に近い者がいたのだろう。
 持ってきてもらうのではその方の手間になると思い、1度は断ったが、彼が戻るとなると誰かがそのオフィスで彼の到着を待っていなくてはならない事もあり、その言葉に甘えることにした。


 そして、その同じ駅に住むスタッフというのが、運の良いことに千鶴だったのだ。


 彼は、そのお礼を口実に彼女を食事に誘うことに成功した。
 彼女との距離はおかげでかなり縮まったのだが、それから暫くして、彼女に学生の頃から付き合っている恋人がいることも知ることになった。
 その事実を知りながら彼は英会話教室の後、偶然を装って彼女を待ち、食事をしたり、飲みに行ったりしていた。
 そうしているうちに彼女への想いは更に募り、見ず知らずの彼女の彼氏を気にしていても仕方がない、自分は自分に正直に生きればいいのだと思うようになっていったのだ。

 そして、千鶴へ想いを伝える決心をした。

 しかし、現実はそんなに簡単にはいかなかった。
 彼が彼女への想いを伝えた時、千鶴はその付き合っていた男との結婚が決まっていたのだ。
 年齢のことを考えても、長年付き合った2人のその決断は、当然だと慎治も頭の中では納得した。

 千鶴のことは、諦めるしかないと自分に言い聞かせた。

 ただ、1つだけ、2人の結婚について気になる節が彼にはあった。
 それは、千鶴が交際相手に虐げられているような気がしていたことだ。


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