投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

やわらかい光の中での最初へ やわらかい光の中で 25 やわらかい光の中で 27 やわらかい光の中での最後へ

やわらかい光の中で-26

怖かったんだよね。でも、今でもこうして会ってくれてることが嬉しい。…オレのことを受け止めてくれたんだなぁって思って。…オレ…いつでもありのままで生きていられる裕美のこと、本当にすげぇかっこいいと思ってるから、オレも裕美みたいにありのままで生きられたらいいなぁって思ってて…。ホントのオレを受け止めても欲しかったし…ちょっとビビッてたんだ…クローゼット見て裕美がいなくなるの…。
 でもこうして変わらず、会ってくれてるから、逆にホントの自分を見せて良かったと今は思ってる。」

 彼のクローゼットの秘密を知った時、素直に躊躇することができたら、作った笑顔が彼にわかるようにひきつっていれば、まだ良かったのかもしれない。

 この言葉を聞いて彼女は、彼を詰ることができなくなった。

 裕美が心にもない笑顔を作り、平静を装っていたことを知ったら、彼は彼女のことをどう思うのだろうか…その時に動揺をみせなかったのは、「ありのままの裕美」がそこにいなかったからだ。

 当時、彼女は今の仕事に慣れることに必死だった。
 まだ自分の仕事に夢と希望を持っていた。いつの日か自分の感性が世間に認められ、それなりの仕事ができると信じていた。
 若いが故だったのかもしれないが、自分の感性にも少しは自信があったし、自分の意見は、率直に答える子だった。
 それは当時の彼女が持っていた、将来への展望がそうさせていたのかもしれない。

 一方、彼は小さなセールスプロモーションの制作会社でノベルティ制作のクリエーターをしながら、写真学校に通い、写真家を目指していた。
 お互い胸に秘める夢があった。それが、2人を引き寄せたのかもしれない。

 彼女は、彼が好きだった。

「いつでもありのままでいる裕美」

 という彼の中の彼女像を、彼が追い求めていたとしたならば、それは本来の自分とは大きくかけ離れている、と感じた。
 なぜなら、裕美は好きな男に嫌われたくないという一心で、自分の顔色など自由に操作できる、ただの女に過ぎなかったからだ。
 彼に嫌われることを考えると怖くて、彼女は言葉を失い、また同じ笑顔を作ることで、彼から逃げた。

 彼に嫌われることだけは、避けたかったのだ。

 それ以来、裕美は彼を避けるようになった。
 彼と彼のクローゼットの中の事実と、ずっと一緒にいられる自信は、彼女にはなかったし、クローゼットの秘密を受け入れることもできなかった。

 幸い時をして同じ頃、別の男性から告白され、その人と付き合うことにした。それを告げた時の彼の目、その場の空気観は今でも忘れられない。
それから1年くらいは、ぎこちない友人としてのメール交換が続いたが、気が付いたときには、そのメールも来なくなっていた。



 あれから5年の月日が流れた。

 裕美は家を出て独り暮らしを始め、車を買ってサーフィンを始めた。
 2人の男と別れ、風のうわさに1人が結婚したことを知った。
 毎晩、缶ビールを開けながら食事をするようになり、お風呂の時間が短くなった。
 残業が増え、教えてもらっていた仕事を今度は後輩に教えるようになった。
 飲み友達の同期は、子供ができて寿退社した。
 気が付けば、会社の同期会は殆ど男の子になっていた。
 寿貧乏といわれる時期も過ぎようとしている。
 暇つぶしに行っていた体験エステも行きつくした。

 ほんの少し前までは、その彼と付き合わなかったことを心のどこかで後悔していた。

 しかし今では、それも含めて自分という人間なのだと理解している。


やわらかい光の中での最初へ やわらかい光の中で 25 やわらかい光の中で 27 やわらかい光の中での最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前