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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-10



 独り暮らしを始めて4年近くになる。
 実家は都内に通えない距離ではないが、飲んだ夜は電車に乗って帰るのが面倒になる距離ではあった。
 実家にいた頃は、電車があるのにタクシーで帰ることもあったが、そんなことを繰り返しているうちに、そのタクシー代が惜しくなったのだ。
 そんな短絡的な考えで家を出たのは良いのだけれど実際に生活が始まると、タクシー代よりも独りの生活は、もっとお金がかかることを学んだ。
 単価の安さにかまけて強気に買い込んだ洗剤類は、独り暮らしを始めたばかりの家計を圧迫した。
 トイレの芳香剤をインテリアの色などに合わせて特に考え無しに買ったら、トイレの匂いとあまりにも合わず、トイレに入るたびに気分を悪くする破目になった。
 自炊すれば節約になるかと思いきや、少し油断するとすぐに食べ物を腐らせて、ただのコストと化してしまう。
 日持ちする食材を買い、日持ちするように調理しても、気が付いたら、冷蔵庫の中で変色してしまうこともあった。
 恐る恐るそれを口にしてみたが、結局は怖くて捨てた。
 洗濯物の量に対して洗剤の適量がわからず、多めに入れていたら、洗い上がった洗濯物から異臭がした。

 昔、独り暮らしの女の子の家に終電を逃して、お世話になったことがあったのだが、その子の部屋は足の踏み場もなく、トイレにはオレンジ色のカビが生えていた。
 不思議と臭いはしなかったが、洗面台の排水溝は、穴が見えない程、抜けた髪の毛で覆いつくされていた。
 当時、実家に住んでいた彼女は、自分の部屋をあまり綺麗にしていなかったので、このままでは、自分もその友人と同じ人種になってしまうと思い、焦ってその週末に自分の部屋の掃除をしたのを覚えている。

 その経験を活かし、部屋はなるべく綺麗な状態を保とうと心がけた。
 トイレやお風呂は、2日か3日に1度は洗った。
 排水溝から上がってくる、生臭い臭いが気になり、初めの頃は毎日のように排水溝にたまった異物を溶かす洗剤を使って掃除していた。
 部屋はまめに掃除機をかけていても、どこからともなく埃や髪の毛が出てくる。慣れるまでは仕事で疲れて帰っても、毎日床掃除だけは欠かさなかった。今でも、3日に1度は床の掃除をしている。

 実家にいた頃、リビングのソファーに座り、抜けた髪の毛を心無く床に捨てていた自分を反省した。
 今では、実家に帰っても独り暮らしの自分の部屋でも、抜けた髪の毛はゴミ箱に捨てるようにしている。

 独り暮らしを始めるまでは、炊きたてのお米や作りたてのおかずしか食べなかったが、今では1度冷凍した物でも美味しくいただけるようになった。
 1人前のおかずを作ることにも慣れた。
 同じ食材で違う料理を作ることを覚えた。
 お皿を洗うのが面倒でワンプレートディッシュや丼物が増えた。
 時には丼物ではないものでも、無理やりお米の上におかずをのせたりする。
 しかしどんなことがあっても、鍋から直接食べることだけは絶対にしないようにした。
 根拠はないが、その行為が、自分にとって大きな境界線のような気がしていたのだ。
 そこを許したら、全てが堕落していく気がしたのだ。

 実家での晩酌はしなかったが、独りになって毎晩缶ビールを開けるようになった。
 初めの頃は、家での独り飲みで、二日酔いになるほど飲んでいた。
 しかしこれでは体を壊すと思い、特別なことがない限り500ml缶2本までと決めた。
 実家では見たい番組がなくても、常にテレビを点けていたが、独り暮らしを始めてから、見たい番組がない時は点けなくなった。
 月の綺麗な夜などは、テレビも明かりも消して、独りで冷酒を飲みながら月を愛でたりする。
 そんな自分を自立した女性っぽいと半笑いしつつも、実際に年齢は十二分に自立していていいことを痛感させられ、その半笑いは笑えない笑いへと変わった。

 そして、「自立」ってなんだろうと、取り留めもない疑問を持つようになった。

 アロマキャンドルやアロマオイルを楽しむことを覚えた。
 独りで行動する気楽さも知った。
 それと同時にその寂しさも感じた。

 彼氏がいた時も結局は、どちらかの家に入り浸るだけの週末が増えた。
 それでも独りよりは、ましなのかもしれないと思っていたが、その生活にも飽きて、その彼とは別れた。


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