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パラドックス──ゲーム理論より──
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パラドックス──ゲーム理論より──-4

≫4

 数日の滞在の後に、共犯者である二人の供述──浜永栄一による強盗と放火、武島元昭による鴻原早百合への強姦と殺人──の一致が取れた。そして、自分は駅まで小路博士の見送りを命ぜられた。荷物があるからと鴻原殿が車の使用を勧めたので、博士は「では、お言葉に甘えて」と素直に助手席へと乗り込んだのだった。

 この暑さと博士の荷物では、駅まで行くには大変だろうという計らいは鴻原殿らしい。実際に、鴻原殿の接待は昔から定評があると聞いた事がある。
「真実は、酷でなければならない」
「そうでしょうか」
博士は、タバコに火を着けた。彼は事件の関係者として、資料を貰っているはずだ。それでなくとも、供述を録音していたという事は全てを聞いている。鴻原早百合は武島に乱暴された後、殺されたという事実を。亡くなってからも、彼女はこうして汚され続けている。何人にも、何人にも。
「あなたは一体、何をしたのですか」
勿論、自白させる事に関しての質問である。
「一任したのは鴻原殿、案内したのは君、信じたのは彼ら。わたしは、何もしていないよ」
横目で見れば、彼は窓に向かって美味しそうにタバコを吹かしていた。何も無い道路を見ながら、博士は満足そうに微笑んでいる。ここから、駅まで五分位だろう。その間に、訊いておきたい事は多過ぎる程にある。
「例えば、わたしが呼ばれなくとも──君はこの事件の真相を遅かれ早かれ知っただろう」
彼を怨むのは完全なるお門違いだったが、自分は憎しみのやり場を無くしていた。手が震え、目が霞む。ハンドルに突っ伏して、とにかく泣き叫びたかった。震える声を抑え、質問の仕方を変えようと試みる。早く訊かなければ、駅に着いてしまう。
「一体、何と言って吐かせたのですか」
「簡単だ。もしも、二人が黙秘し続けたら共に懲役二年。しかし、共犯者が黙秘していても、自白した側だけは刑を一年に減刑。ただし、共犯者の方は懲役十五年となる。逆に共犯者だけが自白した場合、共犯者の刑が一年になる。そして、黙秘した側が懲役十五年となる。ただ、君達が二人共に自白した場合、平等に懲役十年になる──と言った」
「そんな、勝手な事を言ったのですか」
何を考えているのだろうか、この男は。そんな勝手が許されるものか。一体、何の為に裁判所があると思っているのだろうか。
「さて、この場合に君は自白するかい」
少し考えて、「言わざるを得ない、状況になる──という事ですか」と答えた。言わなければ、自分だけが損をする。やがて、駅が見えてきたので仕方なく路肩に車を付けた。
「信頼関係の無い者を潰すのは、非常にたやすかった。だがね、本当の答えはそうでは無いんだ。彼らは君が最初に言った通り、わたしにその様な力が無い事に気付くべきだった。さて、それでは──さようならだ」
エンジンを止めると、博士はドアを開けて鞄と共に駅前に下り立つ。しかし、自分は開けられたままのドアに向かって叫ぶ様に訊いた。
「小路博士──鴻原殿とは、どの様なご関係なのですか」
「さあ、ここで答える義理は無いがね」
タバコを舗装された道に捨て、踏み消す博士。
「あなたは、一体」
「訊いてばかりだな」
少しだけ、彼に苛立ちが見えた様な気がした。
「“はい”か“いいえ”で答えよ。正解した場合のみ、どの様な質問にも答えよう」
所詮、“はい”か“いいえ”の二者択一だ。当たる可能性は五分五分。この勝負、受けない手は無い。
「解りました」
「では、これから君が発する言葉は“いいえ”──である」
だが、言葉に詰まった。負けた。つまり、これは浜永や武島に出した提案と同じ性質上のものなのだ。“はい”にしても、“いいえ”にしても矛盾が生じてしまう。
「解ったのなら、わたしに会いに来るがいい。わたしは教育に長けてはいないが、事実の提示なら出来よう。それから、ゲームには幾らでも何処にでも抜け道がある。それでは、また逢おう──似鳥くん」
はははははと高笑いをしながら、彼は車のドアを閉めると駅内へと消えて行った。

(了)





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