想い人-1
「なぁ。健太って、誰かと付き合おうとか考えたことあんのか？」
「ん？付き合うなら誰がいいかとか、そういうのはあんま考えてねぇな。考えたとこで意味ねぇし」
その会話を聞いた時、私は悲しくなってしまった。
私、吉村花梨には好きな男の子がいる。それがさっきの会話に出て来た新谷健太だ。
健太とは小さい頃からの幼馴染みなんだけど、その幼馴染みっていう関係が崩せなくって、そのまま高校生になってしまったのだ。
「まったく…そんなんじゃせっかくの人気が無駄になるぜ？」
「はははっ、人気なんて俺には関係ねぇって！」
「でもさ、健太に告白した奴、結構いるんだろ？」
「まぁね」
健太とその友達との会話に何時の間にか聞きいってしまっている。そっか…健太の事好きな子、いっぱいいるんだ…。そう思うと、私は急に胸が苦しくなった。
「けどよ、お前何でそんなに告白とかされてんのに誰とも付き合わねぇんだ？」
「何でって…そいつらと付き合う気が無いからに決まってんじゃん」
「うわ〜！彼女いらない発言かよ、こんにゃろ〜！」
「何でそうなるんだよ。ったく…」
健太は笑いながら話してるけど、聞いてるこっちは寂しすぎるよ…。
その時の時間は昼休みだったけど、私は体調が悪いという理由で早退した。これ以上健太の傍にいたら、余計に辛くなりそうだったから…。
家に帰ると、私は自分の部屋にあるベッドにバッタリと倒れこんだ。
「はぁ…私が健太に好きって言っても、やっぱり振られちゃうよね…」
自暴自棄に独り言を呟いてしまう。前に、学年の中でトップクラスの可愛さであると言われていた椎名恵美子さんが健太に告白したという噂が流れた。けど健太は椎名さんと付き合ってはいないらしい。つまり振ったのだ。それなのに、椎名さんに比べたら(比べなくても)そんなに可愛くない私が告白しても、多分玉砕だろうな…。
私はそんな事を考えつつ、そのまま眠りについてしまった…。
ピンポーン ピンポーン
何度も鳴らされるインターホンで、私は眼を覚ましてしまった。
「もう誰よ…」
玄関まで行きドアを開けると、そこにいたのは健太だった。
「け、健太…」
「よっ！具合大丈夫か？早退したから見舞いに来たぜ」
「う、うん…大丈夫だよ…」
本当は大丈夫なんかじゃない。健太の顔を見てしまったから…余計に辛くなっちゃうよ…。
「…大丈夫じゃなさそうじゃん？」
何で健太にはわかっちゃうんだろ？私が大丈夫じゃないってことを。
「もうちっと休んどけ。この優しい健太様が看病してやるからよ」
健太は冗談めかしてそう言った。そして私を部屋まで連れていった。
健太が家に来るのは何度目だろう？昔はよくお互いの家で遊んでいて、今でも宿題を教えあったりして家を行き来することがある。家族ぐるみの付き合いだから、その辺も両親は知っている。
閑話休題
「けど珍しいな。お前が早退なんて」
私をベッドに寝かしつかせた健太がしみじみと言った。
「うるさいわね〜、健太に関係無いでしょ？」
あんたのせいなんだから…。つい口悪く言ってしまう。
けど、ホントは口悪く言いたくはなかった。大好きだから…もっと親しくなりたいのに…幼馴染みという関係が私の邪魔をしていつもと同じ口調になってしまう。
「ったく、そんなこと言ってると、彼氏出来ねぇぞ？」
健太のその言葉に、私の中の気持ちが大きく震え始めた。