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忘れ者の森
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忘れ者の森-2

「ねぇ、兄ちゃん」

 微睡みの世界に落ちる寸前、ボーイソプラノの声にそれは阻まれた。

 重たい瞼を上げると、目の前にいたのは少年だった。

 見たところ六歳位で、僕に呼び掛けたのもきっとこの少年だろう。

 元は真っ白だっただろうTシャツに、いくつかの小さな染みをつけ。半ズボンには懐かしの戦隊もののキャラクターがプリントされていた。
 澄んだ眸をこちらに寄せて、ずいと小さな拳を突き出している。

「飴あげるよ」

 言うなり少年の突き出された小さな拳から、苺の描かれたセロファンの包みが僕の掌に転がる。


 大事に握っていたのか、端がクシャクシャになったセロファンは昔好んで食べた懐かしいものだった。

「いいの?」と、僕。

「いいよ!」と、少年。

 カサリ、と耳にこそばゆい音を立てながら包みを開く。

「あれ?」と僕は小さく声を上げた。包みの中には何も入ってなかったからだ。

「引っかかった!」

 僕の眉が下がった瞬間、今度は弾んだ声が上がった。

「はい、こっちが本物。二つあげるよ」

 破顔で差し出された飴は今度こそ確かに本物で、子供騙しの悪戯に怒りも湧いてこない。包みを開き、今度こそ中身を頬張る。

 ほんのり淡い桃色で、三角をした飴。
 口に含むとすぐにやってきた甘さが懐かしかった。いつの間にか隣に腰掛けていた少年も嬉しそうに舌で飴を転がしているようだ。

「ありがとう」

「へへ」

 照れ臭そうに鼻の頭を掻いて、少年は笑みを深めた。それきり少年の興味対象は僕に移ったようで、穴が開きそうな程の強い眼差しが僕に向けられる。

「何処へ行くの?」と、黒い眸が問う。

「わからないんだ」

「ふーん」

 正直な答えだった。僕は一体何処へ行くというのか。
 それともまさか、逝くのだろうか。

 そんな考えが頭を過ぎるが、僕は頭を大袈裟に振ってマイナス思考を吹き飛ばした。
 第一、三途の川を渡るのが田舎を走る古びた電車、というのは聞いたこともない。


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