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沖縄の海は赤かった
【ミステリー その他小説】

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沖縄の海は赤かった-1

 その年の1月16日、証券取引法違反容疑により、六本木ヒルズ内のライブヒルズ本社、及びライブヒルズを率いる時代の寵児だった堀井社長の自宅、新宿の事業所などに東京地検が一斉の家宅捜索を行った。
 ライブヒルズ社はプロ野球界への新規参入、レバレッジド・バイ・アウトによる放送局の買収などを次々とぶち上げ、前年の秋からは世界的なエレクトロニクス企業、ソニア社の買収に向けて水面下で動き始めていた。奇しくもその翌日の17日、ライブヒルズ側とアメリカの投資銀行リーガル・ブラザーズとのソニア買収に向けたキック・オフ・ミーティングが予定されていたという。
 そして2日後の18日、その事件は起こった。ライブヒルズ傘下、エス・エス証券・野田副社長が、沖縄のカプセルホテルで変死したのである。それを聞いたライブヒルズの堀井は、「マジかよ」と絶句したという。この事件を境に、それまで比較的オープンだった堀井のスケジュールは一切が公開されなくなった。
 結局沖縄県警はこの事件を自殺として処理した。

 俺は新聞系の週刊誌、週刊Yの記者だ。学生時代、うちでバイトしていたいまは琉球タイムスの文化部記者クミと、さっき久しぶりに那覇空港で再会したばかりだ。俺はこの事件の真相を探るべく、沖縄入りしたのである。
「クミちゃん、久しぶり。あんまり変わってないね」
「それ、子どもっぽいってことですか? 福本さんこそ、お変わりなく」
「俺、沖縄初めてなんだよ。観光といきたいけど、その暇もなさそうだな」
「福本さん、例のカプセルホテルの場所なんですけど、この辺では有名なとこですよ」
「知ってる。旭会のシマだろ?」
「みんな怖くてこの事件のこと、言えないんですよ」
「要するに誰も自殺だと思ってない、てことだな?」
「初め、第一発見者は女性従業員ということになってたんです。ところが現場に駆けつけた救急隊員の話とあまりに食い違うものだから、いつの間にか男性従業員にすり替わってしまった」
「野田氏はホテルの非常用ボタンを押してたんだって?」
「非常ベルは2度鳴ったそうですよ。2カ所の傷口はためらい傷なんてもんじゃなくて、魚をさばいたような感じだって、救急隊員の証言です。ホテル経営者に話を聞くと、『警察の判断を覆すことはできません。どうかお引き取りください。小さい社会なんで、私たちが生きていけなくなります』って言ったそうなんです」
「俺、ともかく現場見てくる。あとで電話するよ」
「お気を付けて」

 野田氏はしばしば仕事で沖縄に来ていた。そのたびに偽名を使っていたという。その仕事とは、不動産会社ダイナス社系列から発生した沖縄開発事業専門の会社、サイバーファクトリーの仕事である。エス・エス証券はサイバーファクトリーの事務幹事証券だった。野田氏は大証ヘラクレス上場時から、サイバー社と関わりを持っていたのだ。そしてダイナス社は、経済部関係の記者なら知らない者はいない、広域暴力団山岸組の息のかかった企業である。
 このサイバーファクトリーという会社がまたくせ者だった。ここの社長の半沢はタックスヘイブンの子会社をシンガポールに持ち、山岸組とも関係しているといわれる。何の歴史もない実態はトンネル会社なのだが、なぜか沖縄県が全面的に優遇措置を施し、沖縄指定暴力団の影もちらつく。
 半沢はまたエアーシャークという会社の社長でもある。それは航空ツアー会社だ。そして偶然にもエス・エス証券の社長澤井も、旅行会社エイチ・エス・エスから航空会社スカイエアー社を立ち上げた人物だ。澤井は旅行代理業、ホテル業、派遣斡旋業などを営む会社も擁している。半沢とほぼご同業なのである。2人の接点はいまのところまだ不明だ。


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