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光の風
【ファンタジー 恋愛小説】

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光の風 〈占者篇〉-9

渾身の力を込め、ナルは勢い良くハワードを突き放した。大粒の涙が零れる。

目の前には同じように年を重ねたハワードがいる。何十年も前、この城で出会い自然と引かれあった。若き頃より力の強さを認められ占者としての最高位でもある王室付き、国付き占者として活躍していたナル。まだ下級の兵士だったハワード。二人の位の差はあまりに大きすぎ、叶わぬ恋だった。

お互いの気持ちに気付いても想いを伝える事も出来ず、ただ国の為に働き続けてきた二人。自分の気持ちを曝け出せる時が来るのだとしたら、それはどちらかの命が尽きる時なのだと、そう感じていた。まさに今がその時なのだ。

こうして自分の心に正直に抱き合い求めてしまった今、もっと早く素直になっていればと悔やんで仕方がない。自分の身体が在るうちに声にして伝えられていたら、きっと何かが変わったのかもしれない。

頭の中で余計な考えが巡っていく。今はただ愛しくて、手放さなければいけない苦しさが辛い。しかし目の前のハワードを見て思い出す。

それは自らが選び進んできた道、運命なのだと心の中で繰り返した。例え命を落とす事になっても構わないと覚悟を決めて占ったのだ。

今ここに、ハワードに会いにきたのも自分で選んだ事なのだ。

少しずつ冷静さを取り戻しナルの涙も引いていった。どんなに辛いか分かっていて会いにきた。どれほど未練が残ろうとも、それでも会いたくてここに来た。

最後に一目でも会いたかったから。

「どうせなら、来世で結ばれるかどうか占っておけばよかった。」

恥ずかしそうに笑うナルには覚悟さえ感じられた。ハワードは何も言えず、ナルから目を離さず静かに首を横に振った。もうすぐいなくなる、それを拒むことしか出来なかった。

ナルの形を忘れないように彼女の髪を、頬を伝うように撫でる。彼女の目にもう迷いはなかった。道は1つしかない。

懐かしい思い出が次々と頭の中を過る。そう、彼女はいつも頑固で自分の意見は決して曲げたりしなかった。何度もぶつかり、事、カルサに関しては幾度となく対立したものだった。

それは彼女がいつも人を想い考え抜いた結果の行動と分かっていたから、説得するのにもそれなりの時間と理由と労力が必要だった。今回もそうなのだろう。

命を落とすなど、どれ程悩みぬいたか想像も出来ない。きっとそれは優しさだけでは成り立たない。

「本当に貴女は…昔から何も変わらない。優しくて、強くて、頑固で。」

ナルの左手を取りハワードはそっと中指の付け根辺りに口付けた。

「ずっと慕っておりました。最後の時間を私にいただけた事、嬉しく思います。」

顔を上げたハワードの表情は、出会った頃によく見せた笑顔だった。目尻の笑い皺は深くなったものの、薄茶色の瞳や左側にできる笑くぼは変わっていない。

ナルがこの笑顔を見るのは随分久しぶりだった。時を経てハワードの位も少しずつ上がっていく。その度に深く刻まれていく眉間の皺と失われていく表情。いつからか眉をひそめたような難しい顔、厳しい顔しかしないようになった。


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