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「Why dont me…?」
【青春 恋愛小説】

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「Why dont me…?」-1

「面倒なことになったな。」
溜め息まじりにベッドに転がる。右手には、もう型遅れとなった、使い古した自分の携帯電話。
俺、石原幹太(いしはらかんた)、16歳、高二。好きなこと、昼寝。嫌いなこと、面倒くさいこと。今していること、後悔。
「はぁ。」
何で「いい」なんて返事したのだろう。ほんの5分前の自分が恨めしい。
かなり面倒なことの一つに、人付き合いがある。それも、男女のこととなると、なおさらだ。しかし断っておくが、俺は決して社交性の無い人間などではない。確かに人付き合いは面倒だが、社交性を持たないとなると、いずれもっと面倒なことになる。それに人付き合い、は好きではないが、人、それ自体は好きだ。
とはいっても、やはり今回のようなケースになると、どうも苦手だ。

今回のケース、というのを説明しようとすると、話は少し、いや、結構前にまでさかのぼる。

あれは1ヶ月前、だっただろうか。今が5月だから、うん、1ヶ月前で合っている。年度の初め、4月。
俺は晴れて二年生に進級したわけだったが。進級すると同時にクラスも新しいものに変わり、周りは知らない顔ばかりだ。一年のころ同じクラスだった2、3人。それと友達の友達、というくらいで一応は顔見知りというのがまた2、3人。それ以外は、顔だけはかろうじて知ってはいるものの、ほとんど初対面のようなものだ。またこのクラスで人間関係を新しくつくっていかなければならないと思うと、うんざりした。そこに、たまたま前後の席になった奈良義友(ならよしとも)が、携帯のメールアドレスを交換しようと言ってきた。断る理由は無かった。一般的にアドレスの交換というのは友人関係を構築するための一番手っ取り早く、初歩的な方法だ。サラリーマンの名刺交換のようなものだ「これからよろしくお願いします」という。俺は奈良義友とアドレスの交換をした。俺の携帯には赤外線などというハイテクな機能はついていないので手で打つ。その作業は少々骨だった。そしたら今度は隣の席の井澄愛理(いすみえり)が同じようにアドレスを聞いてきた。当然、それにも承諾する。しかし、この時俺は、奈良義友はともかく、井澄愛理のアドレスは携帯の中にただ保存されるだけのものだと思っていた。俺にとってクラスメートの女の子のアドレスなんてそんなものだ。使うことなんて殆ど無いと、そう思っていた。
だが、すぐにそのアドレスは使われた。その日の晩、井澄愛理が俺にメールを送ってきた。内容は、これからよろしく、といったようなことだった。でもそれは別に不思議なことではない。挨拶の一環としてこういうことをする人もいる。しかし、次の日も、その次の日も、井澄愛理からのメールが俺の携帯を鳴らした。内容は世間話の延長のようなもので、なんのテレビ番組が面白いだとか、石原君はそれを見ているか、見るべきだ、とか。物理の先生の顔がチワワに似ている、おもしろいよね、とか。テストの結果がどうだった、とか。学校でも結構話しているのに、よく話題が尽きないものだと感心した。それから井澄愛理からのメールはほぼ毎日続いている。俺は、よくある恋愛マンガの主人公なんかみたいに鈍い奴ではない。そこまでされれば相手がどういうつもりかなんてことくらいわかる。でもわかっているからといって何をするわけでもない。相手が告白もしていないのに振るわけにもいかないし、ひょっとするとあっちは俺が告白してくれるのを待っているのかもしれないが、論外だ、俺のほうにはその気は無い。かといって無視するというわけにもいかない。第一、井澄愛理が俺に惚れているというのはあくまで俺の推測に過ぎない。もしなんらかの対応をして、その推測が間違いだったら、俺が馬鹿みたいだ。それに今のところは俺と井澄愛理との間合いは、都合の悪いほど近すぎる距離というわけでは無い、間合いを詰められそうになったら、突き放すなりなんなりをすればいい。そう考えて、とりあえずは現状維持ということにしておいた。

そして、ここからが問題なのだが、今日、いつもどおりの井澄愛理とのメールのやりとりのなかで、明日一緒に遊びに行かないかと言われた。言うまでも無いが、これはデートの誘いだ、馬鹿でもわかる。その誘いに承諾する返事を俺はしてしまったのだ。いや、深く考えていなかった。なんとなく会話の流れにまかせていたらいつの間にかOKしてしまっていた。ちなみに、今日は金曜だ。

ということで、明日は女の子、しかも俺のことを好きな子、と二人きりというとてつもなく面倒な時間を過ごさなくてはいけなくなった。待ち合わせの時間は、午後1時。場所は二人とも共通の最寄りの駅。さて、どうしたものか。
俺はもう一度溜め息をついた。


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