魔法使いの告白 4-2
「ウチの犬、ああなったらもうなかなか捕まえさせなくて大変でしたけど」
「シロはね、かなり臆病なんです。僕が見えなくなるほど遠くへはいかないし。他の人や犬がくるとすぐ戻ってくるんですよ。…いじめられたことがあるのかもしれません。子供は特に怖いみたいです」
「そうなんですか」
よく見てるんだなあ。
確かにシロはものすごい勢いで走り回っていたけど、一直線にどこまでも走っていったりはしなかった。
ふと、こっちを見るとつっこむように走ってきて。
びたっと止まってはまた向こうへ走っていく。
「店は楽しめました?」
「ええ、とっても。ああいうのはじめてで。みかさんも優しくて」
みかさんのことを思い出すと、こんなとこまでのこのこついてきてよかったのか心配になった。
たぶん恋人よね。
この状況ってみられたら、きっと坂井さん、怒られちゃうんじゃないかなあ。
ヤマシイコトはなにもないけど。
「一緒にいらした方、『彼』ですか?」
「ええ、まあ」
私はそう答えた。少し寂しい気がした。
孝文は確かに恋人のポジションにいるのに、それが幻のように感じる。
「そうですよね。ちょっとショックでした。…いえ、かなり」
坂井さんは寂しそうに笑った。
「僕は、北野さんが好きなので」
「え?」
「ははは。言ってしまいました」
照れたように笑っている。冗談なのかな?
「え…でも。みかさん、『彼女』じゃないんですか?」
「ええ? あー。違います。違います」
坂井さんは手を振りながら早口で言った。
「あれは姉貴です。『アンタにネエさんだの、ママだの言われたくない』って言うので、店ではみかサンと呼んでいます」
「お姉さん…」
いつも丁寧な口調の坂井さんから『姉貴』という言葉が何となく可笑しい。
「あれでも、旦那も子供もいたりするんですけどね」
「え!全然見えない」
「そう、伝えておきましょう。喜びますよ。」
坂井さんが立ち上がって服に付いた枯れ草を払う。
と、シロがダッシュで戻ってきた。
わ、わ、ええっ?
「わっ!」
勢いもそのままに、私に向かって突進してきた。
前足を膝に乗せて顔を舐める。
「どうしちゃったの?シロ」
「熱烈歓迎ですね。走ってテンションが高くなったみたいです。」
坂井さんがシロの首輪をとってリードをつけた。