魔法使いの告白 4-1
憂鬱な気分を抱えたまま、一日中部屋にいた。
土曜だけど、孝文とは約束をしていない。
なんだかこのままダラダラと。
なにか、コンビニで買ってこよう。
なんの目的ももてなかったから、その程度。
とにかく、動こう。
階段を降りると、ボサボサ頭がシロのリードをもって立っていた。
今日はモスグリーンのだらりとしたフード付のフリースとズボン。
散歩にこれから行くのか、それとも帰ったところか。そんな感じ。
「こんにちは」
「こんにちは」
やっぱり、全然違う人みたい。
年齢だって、こうしていると自分と対して変わらない20代半ばぐらいのような気がする。
一方、黒服姿の坂井さんは30以下には到底見えない。
シロが私の足許にきて甘える。
これから散歩、らしい。うれしそうだ。かぷかぷと私の手に歯をあてる。勿論強く噛んだりはしない。
「…あの。一緒に散歩にいきませんか?」
「え?」
「時間がよろしければ」
坂井さんが、穏やかな顔で笑った。
「…はい」
ドキドキする、っていうのとは違うな。
なんだか安心する。
へんなの。
私と坂井さんはシロを先頭に歩き出した。
「北野さん、犬、好きでしょう?シロと遊んでいるの、何回か見たことがあるんですよ」
うわ。見られてた。でも、頭を撫でる程度で。
はじめは小屋から出てきてもくれず、何度触っても懐かなくて、こういう性格なのかな。と思っていたけど。
最近はのろのろと出てきて、ゆっくりとしっぽを振ってくれるようになった。
「子供の頃、飼ってたんです。もう死んじゃったけど」
「そうですか。僕は子供の頃、ずっと飼いたくてね。でも、うちでは飼えなくて。ひとり暮らしをはじめると、ますます飼えなかったんですけど。
ここはシロがいるから、遊んでもらってます」
シロが振り返る。名前を呼ばれたからかな。
「いつも、どこまで連れて行くんですか?河?」
「そう、この先まで。河原に人や犬がいなければ放します」
アパートの近くの河原は確かに、おさんぽには最適だ。
「いたら?」
「延々つれて歩きます。シロが悪さをするとは思わないんですけど、嫌いな人には放れた犬がいること自体がすごく怖いことだろうし」
確かに、知らない犬がそこにいるっていうのは犬が好きでも少し怖い。
触ってみたら、ある程度分かるけど、それまではおとなしいかどうかなんて分からないもの。
まして、シロは子犬や小型犬ではないし。
河原には人も犬もいなかった。
坂井さんが金具をはずすと、シロは勢いよく枯れ草の中を走りだした。
「うわあ、はやいはやい。大丈夫なんですか、アレ」
「大丈夫です」
中腰になっていた坂井さんが草の上に座った。
私も少し離れて座る。