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恋が始まる少し前
【青春 恋愛小説】

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恋が始まる少し前-1

「図書室にいるなんて珍しいね。井上亜紀さん。」
名前を呼ばれて顔を上げると根岸鳴海が目の前にいた。
「そっちこそなぜに図書室?かなり無縁っぽいんですけど。」
そうそう、本より漫画、勉強より元気に外遊びなイメージ。
「俺は図書委員なんだよね。」
なるほど、委員か。んじゃ本に無縁でも居るわけだ。
っていうか来た時居たっけ?
「鳴海〜、お友達が一緒なら俺、帰ってもい〜い?可愛い彼女が教室で待ってるんだぁ。」
受け付けコーナーから優しそうな韓国俳優似の人が声を掛けてきた。
「えぇ!酷いよ兄貴。俺も帰りたいし。」
兄貴…。言われてみれば2人は似ている。優しそうな目元とか、通った鼻筋とか。
髪型がお兄さんはサラサラストレートなのに対し、弟は短髪でツンツンに立たせているから雰囲気が違う。
兄弟で委員とは仲の良い…。
「鳴海は30分遅れて来たんだから、お兄さんは30分早く帰ります。お友達以外客もいないしぃ。」
ごもっともなご意見ですよ、お兄さん。
どおりで、今まで根岸君の存在に気付かなかったわけだ。
一人納得してみる。


「んじゃ、図書委員宜しくねぇ。」
にこやかに微笑み手をヒラヒラさせながら、お兄さんは図書室を出て行った。


根岸兄が帰ったせいであたしらは図書室に2人きり。
「…いつまで未練タラタラでいるの?」
不意に投げられた言葉。
ピクッと体が揺れた。
一番触れられたくないところに直球ど真ん中。
「別に未練なぞ欠片もありませんて。」
「そうなの〜?てっきり、元カレが学校出るまで顔を合わせないよう図書室に引きこもってるのかと思った。」
「……。」
ええ、正解ですとも。元カレに会いたくないから図書室で時間つぶして帰るのをずらしているんですよ。


3ヶ月という付き合いとしては短かったかもしれない元カレは、あたしを好きって何度も言ってくれて、ずっと一緒にいようなんて甘い言葉を囁いていたくせに。
ある日突然「好きな人が出来たから別れよ。」たった一言で終止符を打った。
それだけでも元カレを信じていたあたしを落ち込ませるのには十分だったのに、奴は次の日に新しい女を連れていた。
=好きな人が出来たじゃなくて、新しい女が出来たの間違いだっつーの。=

「未練じゃなくて、顔見るとムカつくだけです。」

そう、でもってあんな男と3ヶ月といえど好きで付き合っていた自分にも腹が立つ。
時間に形があったら返品して欲しい。
「ね、前の嫌な思い出を消す方法って知ってる?」
少し目を細めて、普段より真面目になった顔が寄ってきた。
「……何?」
「それはねぇ…っと、お客さんだ。」
顔つきが普段の穏やかなものに変わり、パタパタと受け付けコーナーに走って行く。
「思い出を消す…ねぇ。」
う〜んと考えてみた。

「さて、さっきの答えだけど。」
「はいはい。」
「嫌な思い出はいい思い出に変えてしまえばいいのです。」


「…そうっすか。」
んなこと簡単に出来たら苦労しません。
どうやっていい思い出なんぞを作れというんでしょ。
「あ、今そんなこと簡単に出来るか、ば〜か。とか思ったでしょ。」
おぉ、よくわかったね。でも〔ば〜か〕までは思ってないですよ。
それはあなたの被害妄想。
「俺と付き合うと、もれなく楽しい思い出が付いてくるよ?」
一瞬、頭がくらっとしてしまった。


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