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小悪魔たちに花束を
【学園物 官能小説】

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小悪魔たちに花束を【新天地編】第一章 晴嵐編入(前編)-8

「次、鳴海・久石組、三里・山岸組!」
 藤堂先生が、ボクたちの名前を叫んできた。
『助かった!』
 ボクはこれ幸いとばかりに一度プールから出て、藤堂先生の方に集まる。
 向こうでクラスメイトたちが不満そうな顔してこっちを見てる。
 ちょっと遅れてきた山岸さんに至っては、何かぶつぶつ言ってる。
 ボクはそんなのを敢えて見なかった事にした。
 
「どっちから先に泳ぐ?」
「俺は別にどっちが先でも良いぜ」
 本当にやる気がなさそうな態度で、久石さんは生あくびをしてる。
「じゃあボクは後にしようかな。
 久石さんの泳ぎも見たいし」
「オッケー。その代わり、ちゃんと見とけよ?」
 ボクの言葉にやる気が出たのか、急に久石さんの態度が生き生きしてきた。
 
 そして、久石さんもまた速かった。
 一緒に泳いでた山岸さんも、そんなに遅いなんて思わなかったけど、そう見えるくらいに。
 
「どうだった、鳴海?」
「凄いすごい。見てよこれ!」
 ボクは嬉しくなって、水を滴らせながらプールサイドに上がってきた久石さんに、ストップウォッチを突き付ける。
「うん。まぁ、こんなもんかな?」
 そう言いながらも、ストップウォッチを受け取った時の久石さんは、まんざらでもない表情だった。
「次はボクだね。ちょっと行ってくる」
 記録を付けてから、記録用紙を固定式のベンチに置いて、ボクは反対側に周り込み、コーナーに並ぶ。
『三里さんと一緒なんだ』
 呟いて、右手を差し出す。
「お手柔らかに」
 三里さんも、ボクの手を握り返して来てくれた。
 やっぱり無言で無表情だったけど。
 
 三里さんは何も喋らないから何考えてるのか解らない娘だって思ったけど、誰に声を掛けられてもすぐ反応するし、さっきみたいに助けてもくれる。
 すごく気の付く人だって、すぐに分かった。
 A型に間違いないと思うな。
 
 ボクと三里さんは、同時に飛び込み台の上にエントリーする。
「用〜意!」
 藤堂先生の、良く通る大きな声が、室内場内を反響し、木霊(こだま)する。
 それに導かれて、ボクは前傾姿勢になる。
 そして、限界まで力を蓄える。
 その力を全てのバネに変えるために。
 
 ピイィ〜ッ!
 
 ホイッスルが吹かれた瞬間、ボクの両脚は台から離れる。
 ボクの身体は楕円起動を描きながら、揺らめきながら周囲の景色を映し出す水面に吸い込まれる。
 そしてボクはそのまま、水中の住人になる。
 
── アトハ、ボク一人ノセカイ──
 
 一年ぶりの、水の抵抗と浮遊感。
 すごい早さで、ボクの前にあった水が一瞬で、後ろへ流れて行く。
 その水を踏み台にして、ボクは更に前へと突き進みながら、ちょっとずつ浮き上がって行く。
 ザバっと水を跳ね上げ、掻き進む。
 
── 懐かしい、でも、ちょっとこれは──
 
 記憶の中にある感覚よりも更にスムーズで、速い!?
 ボクの身体は感じた。
 そのことに対する、恐さと快感を全身に浴びながら。
 
── それでもボクは、前に進んでる──
 
── もっと、泳いでいたい──
 
── もっと早く……──
 
── もっと遠くへ!──
 
 いつの間かボクは、そんな思いに魅了されていたんだ。
 
── デモ現実ハ意地悪デ……──
 
── ソノ終ワリハ、スグニヤッテ来ル──
 
 現実に、その終わりが視界の隅にチラつく。
 
── そしてボクの片手が、その終わりを告げた──
 
 
 ごンっ!
 
「……………。
 痛(い)……ってぇ〜っ!」
 
 ザバっ!
 
ボクは盛大に水を跳ね上げ、頭を抱えて立ち上がったんだ。
 勢い付きすぎて、壁に頭、ぶつけた。
 
「大丈夫か、鳴海!?
 今すんげぇ音したぜ?」
「……うん、大丈夫」
 心配そうにプールサイドから覗き込んで来る久石さんに、ボクは頭を押さえたままだったけど、笑って見せた。
 
「泳ぐの一年ぶりだったからね。
 いやぁ、失敗しっぱい」
「………一年泳いでなくて、これかよ!?」
 重力を思い出したみたいに、重くなった体を引きずりながらプールから上がってきたボクは、ストップウォッチを凝視してる久石さんの方に近付く。
 どうしたのかと思ったボクは、背伸びをして彼女の持ってたストップウォッチを、覗き込んでみた。
 
「……………うそ。
 去年の水泳大会の時より、二秒も縮んでる……」
 ボクはストップウォッチに表示された数字が信じられなかった。
「どうした、二人とも?」
 藤堂先生がやって来て、すぐに皆も集まってくる。
 久石さんが、ストップウォッチを先生に手渡した。
「お前、これ……。
 全国クラスの区間タイムなんじゃないかっ!?」


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