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「アジアの闇を追え!」
【ミステリー その他小説】

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「アジアの闇を追え!〜後編〜」-5

「中国の農村は男尊女卑社会でしょ? そこで子供の数が制限されたらどうなる? 女の子はますます歓迎されない存在になる」
「一人っ子政策が男尊女卑社会を助長したってこと?」
「歓迎されない女の子は遅かれ早かれ売られる運命にある。やがて一人っ子政策で大事にされた男の子達が適齢期になる頃には周りに女の子がいない。都市部から嫁いでくる子なんかいないからお金で嫁さんを買う。実態は性奴隷だけど。そうして90年代あたりに中国農村部で人身売買ビジネス・誘拐ビジネスが急拡大したのよ。犯罪組織は地方政府や公安と賄賂でつながり、近所の人は知っていても誰も助けない。暴力とレイプの日々。親戚のおじさん達までやってきて代わる代わるレイプされ、何年かすれば彼女たちはもう人間としての目の輝きを失ってしまう。仮に実家まで逃げ帰れたとしても、もう親はレイプされた娘を娘とは認めたがらない」
「俺聞いたことあるけど、日本人の女の子が中国人の子の5倍くらいの値で売買されてるとか」
「じゅん、あとで外務省に行ってみるといいよ。邦人がどれだけ海外で行方知れずになってるか。北米でも年間数十人だけど、アジアはいつも3けた、90年代はもっとずっと多かった」
「じゃあその頃から西さんは中国で日本の女の子保護してたの?」
「アハハ、バカね。あたしはまだその頃は中学生だよ」
「西さんも制服とか着てたの? 似合わねえなあ。目つきの異様に鋭い中学生だったんだろうね」
「何言ってんの。可愛い中学生だったわよ。ところでじゅん、陰婚*知ってる?」
「陰婚? そんな俗習があることは知ってるけど、いまでもあるの?」
 耳を塞ぎたくなるような西さんの話が続いた。中国の女性は生きて売られ、死んでもなお売られる。それも臓器売買だけじゃないのか!?
「西さん、俺たちには現実は変えられない。俺たちにできるのはむごい現実を知ることだけだ。それを周りの人に伝えることだけだ。みんなが知れば目線が変わる。それがいつかは当局を動かす力になる。俺たちはそれを信じるしかないよ」
「いかにも文屋さんらしい考えね」
 西さんは苦笑するように言った。
「じゅん、立場は違えど、じゅんもあたしも弱者を思う思いは一緒。あなたはあなたの信じる道を行きなさい。あたしにできることは対症療法。今苦しんでいる子を保護し、ケアをして、安全な場所に連れて帰るだけ。でもこの日本が、決して安全な場所でなくなりつつある。このことは若い子達にちゃんとレクチャーしていかないと。そしてじゅん、あなたたち男性が大事な人をしっかり守ってあげなきゃね。そうそう、じゅん、あたし来週からアメリカ行くんだよ」
「え、もう行くの? 何しに?」
「前にじゅんにも言ったじゃない。障害者支援事業をビジネスとして立ち上げるために株式会社化する話。そのモデルケース見に行くのよ」
「もう次のプロジェクトが立ち上がってるんだね」

 

 俺たちは夜も更けた新宿の街に出た。大学生風の女の子が携帯のメールに夢中になりながら、向かいから来る通行人にぶつかりそうになっている。人波の向こうに西さんの背中が小さくなっていく。俺はその西さんの背中に向かって大声で呼びかけた。
「西さん!」
 彼女が振り返る。人波に遮られながらも、俺は右手の親指を高く突き上げるようにして叫んだ。
「グッド・ジョブ!」


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