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『everyday』
【青春 恋愛小説】

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『everyday』-2

放課後、日直の仕事を終えた花は、人気の無くなった校舎を歩いていた。
相方が風邪で欠席だったので、思ったより戸惑ってしまった。
もー最悪だ…
花は本日何度目かの溜め息をついた。
薄暗い廊下を通って、下駄箱へとむかう。
壁のポスター、天井の木目、普段明るいと気にならないものが急に面白く見え始める。
無心にそうしているうちは自然と京介の事を忘れていることに気付いて、その調子だ、と自分を励ます。
そしてそのまま天井を見上げながら向かった。
下駄箱へついてもまだぼーっと天井を見上げていると、いきなり視界が真っ暗になった。

「えっ!?」
突然のことに一瞬びっくりしたが、すぐ理解した。
京介が、花の目の前に手をかざしていた。
京介は生徒会もやっているのだ。その活動でこんな時間まで残っていたのだろう。
容姿に勉強に生徒会。漫画みたいなやつだ。と花は思った。

「お前…大丈夫かよ」
「……別に。天井見てただけ。」
「なんで。何か見えるの」
「みえないよ」
「じゃあ何でそんなぼーっとつっ立ってたの」
「別に…何でもない」
花はぶっきらぼうにそう答え、靴をつかんで即座に出ていこうとした。
すると京介の冷ややかな声が飛ぶ。
「待て」
「待てって…命令される筋あ」
「送る」

……そんなの、ずるい。


一緒に帰るかと思ったら。
気まずい沈黙が流れる。ただ、並んで歩いてるだけ。
これじゃあカップルなんて言わないよ。

朝と同じようにうつむいたまま歩く。
沈黙が気まずくて、わざと小枝を踏んで音をたててみたり、地面をけっとばしてみたり。
京介はそんな花に何を言うでもなく、黙ってずんずん歩いていく。

花は音をたてるのを諦めて、いつもの通り、分かれた道を左にまがろうとした。
すると京介が不思議そうに声を書けた。
「おい、右だろ」
一瞬考えたが家はやっぱり左だ。
「いや、あたしの家は左だよ」
「え?俺んちだよ。右だろ?」
あっさりとそう言ってまた歩き出す。
行くのか…。
本当に、気分屋だし、自分勝手…。
そう思いながらも花はひょこひょこと後ろをついていった。


殺風景な京介の部屋。居心地は、今はすごく悪い。
京介がコーヒーを花の前に置く。
一口飲んでから、花は尋ねた。

「―で?」
「は?」
「何であたし京介の家に来なきゃならなかったの?」
京介は当然という感じで
「言いたいことあるんだろ?話し合うには俺んちのほうがいいだろ」
と切り返した。

京介は親元を離れて一人暮らし。自分は実家。

確かに。

と、流されそうになったけどつっぱる。
「別にないけど」
京介は疑わしそうにしばらく花の目を見ていたが、やがて
「そ、ならいいけど、なんか最近変だと思ったから」
と言いながら近くの雑誌をパラパラやりはじめた。

花はなんとなく惨めな気分になって、未練がましく付け足した。

「ないことはないけど…」
「……」

冷ややかな京介の視線に耐えながら、勇気を振り絞って口を開いた。

「京介最近さ、冷たい……よ…ね」

案の定、京介は信じられないといった顔で花を見ていたが、暫くの沈黙のあと、溜め息と共に呟いた。
「冷たくない」
「あ…そう…」
きっぱりと言ったその口調も充分冷たいことを花はわかっていた。

バカみたいと思いながらも聞かずにはいられなかった。

「わ、別れ話かと思った?」

京介は雑誌から目を離さずに
「思わない」とだけ言った。

雑誌を見ている横顔を見ていたら、花は急に感情がこみあげてきた。
「…大体ねぇ、そんな強気でいるけど、いつあたしに捨てられるかわかんないんだから。」
「それは怖いなぁ」
そう言いつつも、京介の視線は雑誌にむいている。

花は無償に泣きたくなってきて、その衝動で思わず立ち上がって雑誌をひったくった。
京介なんて、嫌い。
「何、どうし…」
「嫌いだよ、もう、京介なんか」

感情的になってるのは自分でもよくわかる。
京介もポカンとした顔をしてる。
でも、悲しそうな顔は、していない。

「いつもいつも何でそんなに冷静でいられるのかわかんない!なんか京介の言い方だとまるで、」


―捨てられても、いいみたい。

かっこよく決めてやるつもりが、思わず口に出すのをためらってしまった。


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