『教会の話』-1
ある教会に、それはそれは美しく、そして、まるで生きているかのような偶像がありました。
それは、神が宿っているとも言われていました。
あるときは、病気に悩める老人を助けた。
あるときは、戦いに赴いた恋人を助けた。
あるときは、偶像が光り輝き、神の言葉を代弁した。
いつしか、その偶像は、神の化身とも呼ばれていました。
ある夜中に、みすぼらしい少女が教会を訪れます。
助けてください。助けてください。
少女が両手を合わせ、偶像へと、祈りを捧げます。
お願いです。私を助けてください。
偶像は答えません。
愛してください。愛してください。
少女はまだまだ、祈りを捧げます。
偶像は答えません。
私は、誰にも愛されていないのです。助けてください。
偶像は答えません。
あぁ、なんということでしょう。
少女は、大げさに俯きます。
私は、神様にすら愛されていないのね。
少女は、懐から包丁を取り出します。よく切れそうな、よく手入れされた包丁です。
あぁ、神様。私は、こんなにもあなたを愛しているのに、あなたは私を愛してくださらない。
あぁ、神様。でも私は、強い子です。あなたに愛されるまで、私は、あなたのお側にいましょう。
あぁ、神様。愛しています。だから、私を愛してください。私は、誰からも愛されないのです。
あぁ、神様。どうか、愚かな私を、愛してください。どうせ、私は、望まれない子なのです。
あぁ、神様。私には、あなたしかいないのです。
偶像は答えません。
少女が、包丁を喉元へと突き刺します。
血が、とても溢れてきます。
少女は、痛くて、泣き叫びたくても、声が出ません。
やがて、彼女は、生き絶えました。
それを神父は見つけます。
おぉ、なんと愚かな子だろう!
神に救いを求めれば良かったものを!
神に祈りを捧げれば良かったものを!
おぉ、なんと哀れな子だろう!
きっと、この子は、神の元へと、辿り着けぬだろう!
おぉ、なんと罪深い子だろう!
自ら命を絶ってしまうとは!
神父は、神に祈ります。