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バレンタインの事情
【青春 恋愛小説】

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バレンタインの事情-1

バレンタイン。それは、女の子が堂々と好きな人に告白できるという、勇気のないあたしには背中を押してもらっているような日。

「うぁ〜!思ったより上出来だぁ!」
歓喜の声をあげるのは、親友の酒井奈美。
「ホント、上手くいったねぇ。」
賛同するのは、あたし工藤佐代子。

今日はバレンタイン前日。13日の日曜日。
お互いあまり器用ではないため、1人より2人でお互いの思い人にあげるチョコレートを作っていた。
とはいえ、立場は違うけど。
奈美は「彼氏」に。
あたしは「片思いの彼」に。

「むぅ〜。翔に何てメッセージ書こう…。」
少し頬を紅く染めながら悩む奈美。
その姿がなんかいじらしくて可愛い。
「Please.eatme.なんて喜ぶんじゃん?」
冗談のつもりで言ったのだけど、奈美は耳まで真っ赤にしてその場で固まっていた。

あたしの片思い人は木島太郎。
入学してクラスに入って初めて話した人。
「さよこってのもなかなか今時いねぇよな。」
初会話はこれだった。
正直、親には申し訳ないけど佐代子って名前は好きじゃなかった。
小学生の時なんて「おさよ」とか呼ばれて、時代劇の人みたいなんてからかわれたし…。
どうせ時代劇に出てきそうな名前なら「しのぶ」とか「あかね」とかあったろうに、と子供ながらに考えたりもした。
だから、初対面の人に名前の事を言われていい気分になれる筈もなく睨むように相手に視線を向けた。
「俺は太郎って言うんだけど、今時いなくねぇ?」
人懐っこい笑顔に魅せられ、害していた気分が吹き飛んだ。
「太郎…って言うんだ…?」
この事がきっかけであたし達は仲良くなった。
今、思えば初めて「さよこ」という名前を付けて貰ったことに感謝をした気がする。
このことがなければ、あたしとたろちゃんに接点なんてなかった。

2月14日当日−−
バレンタインの波に流されて、学校へチョコレートを持って行く。
「なに、噂によると本命チョコ持ってきたんだって?」
ひょこっとあたしの目の前にたろちゃんが顔を出す。
「よく知ってるねぇ…」
内心、ドキドキしていた。
「酒井さんが言ってたよ?昨日、手作りしたんだぁって。でもって、翔の奴には内緒なのって。」
…奈美らしい。
「誰にあげんの?」
「…秘密。」
本人に直接言える筈もなく、心臓だけがバクバクしている。
「ふぅ〜ん、上手くいくといいね?」
あなた次第です。
「…うん。」

曖昧な返事を返す。

今日のたろちゃんは大忙し。
あたしが見ただけでも、呼び出し8回されている。
呼び出されるたびに、自分が凹んでいくのが分かる。
たろちゃんが陰で「カッコイイ」と言われてて、ファンみたいなのがいるのは知っていたけど。
さすがバレンタイン。みんな自分に素直になって表に出てきたらしい。
各休み時間、昼休みとたろちゃんは誰かに呼び出しを受け、ちっともあたしは会話できない。
気付けば放課後になっていた。
HRが終わり、今度こそ…と勇気を出してたろちゃんに近づくと
「工藤さん、今日の図書委員忘れないでね。」
担任に声を掛けられ、あたしはチョコレートを渡すタイミングを逃してしまった。


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