投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

初雪と朧月
【初恋 恋愛小説】

初雪と朧月の最初へ 初雪と朧月 5 初雪と朧月 7 初雪と朧月の最後へ

主役不在-1

『あなたが主役!!』
前にこんな言葉を見たのはいつだったろう?
古いテレビ番組だったかもしれないし、
小説投稿サイトでへたな素人が書いた小説の一節だったかもしれないし、
もっと他の何かだったかもしれない。
少しネットサーフィンをしているだけで見かけるチープな単語"主役"。
「主役ねぇ?」
他の誰も居ない自分の部屋で、隠す事なく思考が口から漏れる。
「俺でも特別な血筋と特殊な能力でもあれば、世界を揺るがす主役にでも成れたかな…」
物語といえば、歴史上の出来事や、今現在の新聞記事から虚構の作品までと結構広い意味があるらしい。
「あ、それどころか、"誰かさん"みたいに恋い焦がれてすらいないから恋物語すら無理だな」
虚構の作品の中だけでも、アクションやミステリー他にも多岐に渡る…中でも一番溢れていて、現実にも溢れているのは恋愛物だろう。
しかし、淀川は一番ありふれたその手の物語の主役の条件すら満たしていない事に気が付いた。
「おっと!?…自分で主役だの何だの言ったら厨二病か!?」
アホな事を考え始めたから寝ようとPCの電源を落としたて寝たのは、3日前の晩の事だった。


そしてこれも、些細な事だった…
[恋〇の心理]や
[〇愛のテクニック]や
[恋愛占い]だのと
俺には興味の湧かない、下世話な話としか思えないタイトルがいくつかが棚に並ぶ。
電気回路しか愛せないなどと周りから揶揄されるのは不快だが、ともすれば淀川自身もソレを肯定しなければいけないかも知れない。
「俺達にはしばらく関係ない話だな」
何の気もなしに、横に居る友人に笑って問いかける。
「いや…もう諦めろって…。…会えもしないのに…。なんで、こんな本を取ろうと…」
だが、そいつは頭の中で何がオーバーフローしているのか、小さい呟きが溢れだしていた。
同じように言われている友人だが…真実とは違うという事を淀川は知っている。
…正直、その事を知らないとかなり危ない人間になっている…、いや、知っていても危ない人間みたいになっている事には変わりがない。が、
(そう言えば、コイツには関係無くはないか…)
中学の頃からの付き合いだから知っている…彼が幼馴染みに惹かれているという事実。
(苦しんだり悩んだりする恋愛物の主役なんてごめんだけど、せめて脇役ぐらいの活躍(手助け)はしてやりてぇな)
淀川自身もその手の経験が豊富なわけでも、まして得手なわけでもない。
「お前!?まだ中島の事が?」
だからと言って、遠くで見ているだけというのは淀川の性格には合わなかった。
「………」
はっと我に返ったそいつが、90度に首を回して目をそらす。
「……笑えよ。結局、何も言えずに、このザマだ」
自嘲の響きが多分に含まれた返事が返ってきた。
誰もが高校生活にも馴れ始めるだろう頃から、たまに様子がおかしくなっていた理由がようやく判った。
そんな経験の無い淀川にとっては理解のできるモノではなかった。
「笑えねぇよ…俺にはよくわからないけど、応援ぐらいするぞ」
「お前に応援されてもな」
男友達同士の何でもない日常の話。
これは昨日の話。


初雪と朧月の最初へ 初雪と朧月 5 初雪と朧月 7 初雪と朧月の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前