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「穴」
【ホラー 官能小説】

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「穴」-3

きっと同じ大学の人だろう。

引っ越してきたばかりではなさそうだから先輩だろう。

部屋の雰囲気が清潔そうで上品な感じだから、本人もそうなんだろうな。

後で挨拶に行ってみよう。それで大学のこととか、東京のこととかいろいろ教えてもらうふりをして、どさくさに紛れて仲良くなれたらこれからの大学生活は一段と楽しくなりそうだ。

「・・・パタン。」

壁越しに扉の閉まる音がして、それから次第にペタペタと足音が近づいてきた。

僕は勝手な妄想の中から我に返り、息をのんだ。
壁越しに僕の心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかというぐらいドキドキしながらその時を待つ。

(来た・・・)

彼女は濡れた髪をタオルで丁寧に拭きながら現れた。
どうやら風呂にでも入っていたらしい。上気したように頬を桜色に染め、薄いパジャマを一枚着ただけという格好で、ローテーブルの横に腰をおろした。

僕はもう、それを見ただけで反応してしまった。
僕はまだ女の味を知らない。
当然だ。高校の3年間は勉強ばかりに明け暮れたから。
中学までずっとやっていたサッカーも辞め、ただひたすら勉強していた。だから、彼女なんて作る暇はなかったし、そういう気もなかった。

そんな僕に、こんなに無防備な彼女の姿はあまりにも刺激的で魅惑的だ。

彼女は、まさか僕がこんなに食い入るように覗いていることなど気付きもしないない様子で、なおも髪を拭いている。
彼女の髪は豊かな長い髪で、今は水気を帯びて漆黒に輝いている。丁寧に拭く様子を見るには、髪は彼女の自慢なのだろう。
華奢なつくりの体で、まるで少女のようなのに、眼差しはそれに反して艶やかで、長いまつげが印象的だ。

「・・・。」

彼女の唇が小さく動いた。
何かを言ったのか、僕にはよく聞き取れなかったけれど、それから彼女はピタリと手を止め、タオルを置いた。
それから、ゆっくりとベッドの上に乗り、足を投げ出すような格好で壁に寄りかかる。

(まずい!)

僕はとっさに壁から顔を離した。
彼女がこちらを向いたからだ。
彼女の部屋は、僕の部屋と正反対の作りをしていて、彼女のベッドは反対側の壁に平行に置かれていた。だから、今はちょうど僕と向かい合うようになっている。

僕は焦った。

こんなにはっきりとあいている穴に、さすがに気がつかないわけがない。
僕があけたものだと勘違いされたら大変だ。
もし何か言ってきたら、気がつかなかったふりをしよう。そうだ、この穴の前に何か置いておいて・・・

そんなふうに言い訳に頭をフル回転させながら、僕は気がついてしまった。

今、穴に気付くぐらいなら、なぜ今まで?気が付かなかったんだ?

これまでここで生活していれば、すでに気が付いていてもおかしくないじゃないか。
男の僕ですら大家さんに言ってなんとかしてもらおうと思ったのに、女性である彼女が、もし気付いているなら、真っ先に行動をおこしていてるはずだ。


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