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旅立ち
【フェチ/マニア 官能小説】

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旅立ち-1

 これは躾という名目で教師の体罰が横行していた80年代が終わろうとしていた頃の話である。私は都内の大学を卒業し、K県の私立女子高校で養護教諭になった。いわゆる保健室の先生だ。

 当時、教育の現場はブラックボックス化していた。特に私立校ではそれぞれが独自の校風を構築し、個性を競い合おうとした。中でも躾や厳しさを前面に打ち出す高校は多かった。それが親御さんの要望に叶っていたこともあるが、手っ取り早いPR手段という面もあっただろう。私自身もこの高校の卒業生だ。覚悟はしていた。しかし赴任するなり、私は教育の場として信じられない場面に幾たびも遭遇することになる。

 

 保健室は学校の駆け込み寺だ。保健室登校という言葉も既に生まれていた。「先生、今日なんか、気分が悪いんだ」「そう、じゃあ良くなるまで休んでいきなさい」。どこといって悪いところがあるように思えない生徒でも、私は変な詮索はしなかった。少しずつ生徒たちは、私に心を開いてくれるようになった。その中に一人、気になる生徒がいた。1年生のK子だ。
 K子は見るからに線が細く、どう見てもまだ中学生にしか見えない。引っ込み思案で、大事に育てられた少女に見えた。もともとこの学校には裕福な父兄の子が多かった。K子は午後になると決まって体調が悪いと保健室を訪れるようになった。この子は何か問題を抱えている、でもなかなかそれを自分から切り出そうとはしない。私はなるべく同じ高さの目線からK子と世間話をするように努めた。しばらくするとK子の口から、先生の体罰の実態が少しずつ語られ始めた。

   

 それはK子が入学して1週間ほどが過ぎた頃のことだった。K子達は体育の授業で校庭に出ていた。その授業中、担任の教師が持ち物検査と称して密かに生徒全員の机や鞄の中身を調べていたのだ。するとK子の鞄の中から、校則で禁止されていたカラーリップクリームが出てきた。私は怒りをこらえて努めて冷静に尋ねた。「先生には、怒られた?」。K子は少し黙っていた。「放課後、クラスに残されて……ケツバンです」。恥ずかしそうにそう言うと俯いた。「ああ、ケツバンね」。ケツバンとは、厚めの面の広い平らな板でお尻を打たれる体罰だ。この高校には以前からあったし、私もよくやられた。でもこのやり方はひどい。K子が保健室を頻繁に訪れるようになったのは、この出来事がきっかけだったようだ。SOSを発信する相手を探していたのだろう。「K子さん、よく話してくれたわね。あなたの担任は数学のN先生ね」。私はともかくN先生に会ってみることにした。このままにはしておけない、生徒の心のケアは私の仕事だ。


 N先生は昔の私の担任だった。「やり方は確かにちょっと不適切だった。だが違反を見つけた以上は罰を与えないわけにはいかないだろ」「K子さんの気持ちを考えたら、こんなの躾になりませんよ」「君はどうだった? 私はずいぶんと君の尻を叩いたが」「私はやんちゃだったから先生方を恨んだことはないです。でもK子さんは傷ついています」「持ち物検査のやり方は改める。K子にも謝る。だがケツバンはやめない。躾は厳しく、それが我が校の校風だ。親御さんの支持もある。怪我をさせない程度の体罰ならむしろビシビシやってください、そう言われて娘さんを預けに来られるのだから」。これはN先生だけの問題ではないなと私は思った。怪我をさせない体罰とは、要するにお尻への体罰だ。この高校中にきっとそんな体罰の嵐が吹き荒れているのだろう。まずは生徒をリサーチしてみようか。


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