投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 290 やっぱすっきゃねん! 292 やっぱすっきゃねん!の最後へ

やっぱすっきゃねん!VF-1

「ハァ…ハァ…」

 小雨降る朝。
 佳代は走っていた。中学校正門までの長い坂路を。

 6月下旬に梅雨入りしたきり、雨の降らない日々が続いていた。
 それが7月初旬の期末テスト週間を迎えた途端、嘘のように雨ばかり。

 今日で3日目──。

 テスト期間の1週間は部活も休みになる。いつもは自転車の佳代も、連日の雨に徒歩で登校せざるを得ない。

「ハァ…なんとか…間に合った」

 教室にたどり着くと、ホームルームまで残り3分。安堵の笑顔で扉を開けた。その途端、異様な光景が目に飛び込んできた。

 ──なに?この異様な空気は。

 佳代は驚いた。クラスメイトの大半が教科書を開いているのだ。直也さえも。
 その姿に、テスト週間初日に担任の真柴が語った言葉が頭に浮かんだ。

 それは一昨日の夕方だった。

「今週の期末テストの成績は、あなた達が高校受験するための指針となります。
 ひとつは進路指導。今回の成績を基準にして、受かる高校へと私達は指導します。
 もうひとつは内申書。受験した高校側が、あなた方が相応しい人間なのかを判断するために用います。
 以上を踏まえて、期末テストに望んで下さい。自分の思う未来は自分で切り拓いて下さい」

 佳代自身、先週から眠る時間を削って努力はしていたが、テストを迎え、クラス全体が重苦しい雰囲気に包まれるとは夢想だにしなかった。

 ──高校受験。皆んな必死なんだ。

 地区大会の事ばかり考えていた佳代にとって、焦りを覚える光景だった。

 ホームルームは自習になった。 クラスを見た真柴の親心なのかは知らないが、寸暇を惜しむ者達は喜んで教科書と向き合い続ける。

 そんな中、佳代はそっと尚美の傍へと立った。

「何か、すごい雰囲気だね」

 おそる々とした佳代の口調に、尚美は苦笑いを浮かべる。

「私もそう思うけど、変に雰囲気壊して睨まれるのもイヤじゃない…だからさ」

 尚美は耳元で囁いた。
 佳代が2、3、話を交している中、周りと違う雰囲気で席に着く娘があった。

 有理だ。クラスの大半が教科書を開いているのに対し、ひとり、文庫本に目を通していた。

「有理ちゃん、何読んでんの?」

 有理は、近づいて来たのが佳代だと分かると笑みで迎えた。

「ドフトエフスキーの──罪と罰─よ」

 佳代は顔を引きつらせる。

「ドフト…何それ?」
「なんでもない。ただの暇つぶし」

 有理は優しく微笑み、文庫本をカバンに収めた。


やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 290 やっぱすっきゃねん! 292 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前