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ある日の雨の中の女
【女性向け 官能小説】

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ある日の雨の中の女-1

「困ったわ…ここはどこだろう…」
傘をさし、うつむきながら成美は歩いていた。


すでにまわりは薄暗く、降り止まない雨。


せめて表通りに出たいのだけど、知らない土地で住宅街の奥深くに迷い込んでしまっていた。



雨の日、傘の中、こんな日は自分と向き合うのがいや。


成美の奥深くのマグマでできた悪魔が次々と彼女にささやきかける。


そのひとつひとつ、今まで押し隠して、主人にも子どもたちにも今まで必死に良い妻、良い母を演じてきたのに。



「…さん、片桐さん」
成美ははっと我に返ってふりかえった。


紺色の傘をさした一人の男性が立っていた。
「春…高野さん?」
「やっぱり片桐さんでしたか」
コンビニの袋を下げて高野は成美のところへ駆け寄った。
思わず成美は右足をちょっと後ろにずらして構えた。
「今日は妻が子どもと田舎の実家に遊びに行ってるんで、僕の夕飯です」
とニコニコしながら白い袋を持ち上げてみせる。


「あの…道に迷ったんですけど、表通りにはどう行けば…」
「だめですよ、片桐さん。膝までぐしょぬれじゃないですか。まだ春といっても寒いんだから、温かいお茶でも飲んでいってください」


そういえば…
降り止まない雨で膝どころかスカートも水分を含んで重い。


それに足もずきずきしてとても痛いことに急に気づいた。高いヒールの足下は泥がはねてストッキングまでぐしゃぐしゃ。
今から表通りには疲れてとても行けそうにない。
「しょうがない、ちょっとだけ…」
成美はうなずいた。



高野春彦。
22のころつきあっていた男。
いつもニコニコして、性格もさっぱりしている。
若かった2人は我が強く、別れたあと互いに別の人と結婚し、子どももいる。




「あれから10年もたつのか…」


そう思いながら、高野が後ろから抱きすくめた感覚を思いだして、成美は顔が熱くなってきた。


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