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春に生まれた彼女へ
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今夜は、手を繋いで、眠ろう-5

すっかり、人気も少なくなった水族館を、後にして。
僕らは、手を繋いで、帰路につく。

そこで、ふと、疑問に思った。
そういえば、夕は、何をしに行っていたんだろう。

聞いてみると、夕は、とても嬉しそうに、携帯の画面を見せてくた。
そこには、水槽の中で、のんびりと漂っているクラゲ。
白くて、フワフワしている。

「…クラゲ?」


嬉しそうに、ずっと画面を見ている夕。
その日から、夕の携帯の待ち受け画面は、クラゲだった。





「…あ」

「ん?」



今日は、早めの就寝。
お日様の匂いがするシーツを敷いたベッドに、二人寝転がる。


「あの、おしるこが好きな理由、もう1つ、ありました」

「ん?おしるこ?」

「だって、おしるこを飲んだ朔さんとの、キスはとっても甘いんです」

「じゃあ、ブラックコーヒーを飲んだら、キスはだめ?」

「う…だめじゃないですけど…、少し苦くって」

「そう」

「でも!朔さんとのキスは、その…、苦くっても、好き、ですよ?」


顔を赤らめながら、一生懸命に、説明する夕が、とてもかわいくて。
きゅっと、夕の手を絡め、手を繋ぐ。


ー今日は、手を繋いで眠ろう。


手を繋いで、少しして、隣から、心地よさそうな夕の寝息が聞こえてくる。
ああ、そういえば、結局、なんでクラゲなのかは、教えてくれなかったな。
そう思いながら、僕も、微睡みの中へ、落ちていったのだった。





ー夕が恥ずかしがって、教えてくれなかった理由を、弥勒が、こっそり教えてくれたのは、もう少し先の話。


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