僕らの関係 学園祭-5
「たっだいまー！ ……あれ、二人ともなにしてんの？」
嬉しそうに教室に飛び込んできたのはツインテールを三角巾で隠したエプロン姿の里奈。その手にはホットケーキの乗った皿を乗せている。
由香は口元を拭い、幸太は床に這いつくばって、まだ大きいままの部分を隠す。都合よく書類も散らばっているおかげで違和感も無い。
「あはは、りっちゃん、どうしたの？ 部活はいいの？」
「うん。それよりね、さっき家庭科室借りてホットケーキ焼いてきたの。味見してくれる？」
こんがりとキツネ色に焼けた表面とメープルシロップの香りが美味しそう。売り物として遜色のない出来栄えに、二人はすっかり感心する。由香は一切れ摘むとはふはふしながら頬張る。
「うん……うん。美味しい。でも……、もう少し苦いほうがいいかな？」
「ふーん。ユカリンは苦いほうがいいんだ。じゃあコータは？」
里奈は由香に這いつくばる彼の元へと歩み寄り、一切れ手渡す。
「う……ん。うん甘くて美味しいよ。やっぱりりっちゃんはお菓子作るの上手だね」
裏もなく、素直に誉めたつもりの幸太。
「ふんふん……。ねえ、コータちゃん……」
しかし、里奈は何か言いたそうに彼の顔を覗き込む。子犬のような丸く、ちょっと垂れ目がちな瞳で彼を射抜く。
「なに？ りっちゃん」
思わず後ずさる彼を里奈は逃さない。何か感づいたのだろうか？ 痕跡となりうるものは既にティッシュにくるまれているはずなのに。
「んーん、なんでも無い……」
予想に反し、彼女は何も言わず引き下がる。普段なら「まいったかー」「美味しいでしょ、でしょ？」としつこく感想を求めるはずが、やけに素直で逆に不安になる。
「それじゃあ、また明日ー」
里奈は元気良く宣言すると、そのまま教室を出て行った。
「なんだったのかしら？ 里奈……」
「さあ……」
今度ばかりはさすがの幸太も理解できずにいた。