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多分、救いのない話。
【家族 その他小説】

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多分、救いのない話。-7--1

 歯車は挽きたくて挽きたくて仕方がない。
 ただ廻り続けるのは、愉しくない。
 ぐちゃぐちゃに挽きたくて挽きたくて、
 でも仕事が出来ないことに、退屈に飽きている。
 歯車は、嘲笑の音を立て、軋む。
 それでも来る狂る苦る繰ると、廻り続ける。
 何かを挽く、その時まで。退屈を、紛らわせて。

 (ある映画の冒頭のモノローグ。
 脚本、監督、成立年月日は不明)


 水瀬は学校側から一旦解散を言われても、自宅に帰る気になれなかった。葉月先生の不審な態度、母親の意味深な言葉。それらもあるが、それ以上に友人が心配だった。どうしようもなく歪な関係であっても、それでも。
 だから神栖家にもう一度来た。僅かに明かりが揺れているから、まだ起きているのかもしれない。一旦メールをしようかと思案した時。唐突に玄関が開いた。
「………!」
 あまりに唐突でびっくりして声が出ない。
 だが、水瀬に気付いて開けられたのではなく、客を帰すために開かれたのだと気付き、少し動悸が鎮まった。
 しかし。客は男で、大柄で正直柄がいいとは言えない強面の顔。そんな男が深夜、こちら(つまりは門の方なのだが)にやってくるのは、正直穏やかではいられない。
 と。男がこちらに気付き、近付いてきた。
「あんた誰や?」
「あ、私は」
 相手にはそのつもりもないのだろうが、ヤクザに脅されてるみたいでびくびくしてしまう。
「……水瀬といいます。深明学園の保健教諭です。慈愛さんがいなくなったとの知らせを聞いて、捜していました」
「……解散してええって言うた思うけど」
「……ええ。そうなんですけど」
 唾液を飲み込み、一息に言う。
「慈愛さんのお母さんは私と個人的な知り合いでもあって。様子が気になったんです」
「……知り合い?」
 何かが男の記憶に触れたらしく、態度が和らいだ。
「そうか。なら入ったって」
「……いいんですか?」
「ええよ。……ただ」
 急にバツの悪そうな顔になり、困ったように男は言う。
「今ちょっと悪酔いしてるから……、びっくりせんといたって。俺も調子乗っ取ったから」
 ……悪酔い? 一応先程まではいつも通りの会話が可能だったが。
「保健のセンセなら介抱得意やんな? 任せたわ、じゃ」
 足早に去っていき、呆気にとられた。一拍遅れて、かなり無責任な願い事をされたことに気づいたが、既に男は神栖家を出、車でどこかに行ってしまった。
「……何あの人」
 ――水瀬と火口のニアミスはこれで終わる。お互いの情報を組み合わせたら、或いは違った結果になっていたかもしれない。
 だが、結局お互いの線が触れることはそれ以上はなく。
 水瀬奈津美が、歪む歯車に挽かれることは、不可避となってしまった。


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