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初雪と朧月
【初恋 恋愛小説】

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-1

風が流れる。
ゴゥゴゥと頬を打つ程の強風だ。
人通りの無い校舎裏のスペース。
塀と校舎が生み出した似非ビル風は荒々しいが、同時に清々しい心地よさを感じる。
そんな所で塀に腰をかけて考え事をするのが、
河東 勝明の最近の行動だった。
「………あのソースがどうして、コンパイルできないんだ?ソースが間違ってんだろうけど」
議題はもっぱら、最近勉強し始めたプログラムの事だ。
太陽光が射し、風が流れるという環境で考えている割には風流さの欠片もない。
それでも、風と光に溢れたこの場所を好むのは自分に無い明るさや清々しさを求めているのか?
他人にはもちろん、まだ中学生の河東自身にもわからなかった。
理由はともかく河東は強く吹く風が好きでそこに居たのは確かだ。

ガラガラァバン!
最も近い校舎の窓が、勢いよく開く。
俺が所属する部活"PC倶楽部"の部屋の窓だ。
「河東ゥー!!倶楽部の部長は集まるようにって話が来てるでしょう」
直に鼓膜を叩く様に、猛々しい叱咤が横凪に耳に入る。
「よぅ」
よく知った顔だ。
彼女の名前は中島 奈津美(なかしま なつみ)
幼稚園児の頃から話して喧嘩して遊んでいる"友達"だ。
「"よぅ"じゃない。時間時間」
そう言いながら、窓から部室へと戻る俺に時計を指差す。
時計を見ると時間は、
「あ!?やべぇ」
時間は、10分も昔に過ぎ去っていた。
「変な所で真面目な癖に、相変わらず抜けてるよな〜」
副部長の淀川が横から、チャチャを入れる。
確かに抜けてる事は認めるしかない、でもミニスケープゲーム(シ〇シティ)をマウス片手に遊び続ける彼に言われるのは納得が行かなかった。
「ほら、話してないで早く行くよ」
ドアを一発叩いて急かすと、中島は誰もいない廊下を走り出す。
「早く。河東のノロマ」
確かに足の速い方ではないがカチンときた。
そこで、前をポニテを揺らしてはしる走る女の子に一言問いかけた。
「おいおい!生徒会書記殿が廊下を走って良いのか?」
少し悩んだのかスピードがガクンと落ちる。
「そのノロマに追いつかれてんじゃん」
その隙に後から部室を走り出た俺はなんとか並ぶ事ができた。
「あっ、ズル」
いつの間にか俺の中では競争が始まっていた。
「部屋に籠もってるからナマったんじゃない」
ほぼ同時に階段に差し掛かる。
生徒会室は四階だ。
中島はタタッと軽やかに上がって行く。
「でも、女に負けるわけないな」
俺も手すりに掴まると腕の力も総動員して二段飛ばしに追いかける。
「私の勝ち」
生徒会室のドアの前で中島は俺に笑顔で言ってきた。
どうやら、アッチも競争になっていたみたいだ。
「あ〜!?負けた。やっぱりナマってんのか?」
普段は校舎の端から端、一階から四階と、いつもは面倒に感じる生徒会室にあっという間に生徒会室に着いてしまった。
できれば、こうしてずっと中島と走っていたかった。
「もうこんな理由で行くの嫌だからね」
そんな思いとは別に、ドアの前で中島が今回の事で念を押す。
「はいはい。柔道やってる田中(生徒会長)に投げられない内に行きますよ」
わざとボケて気のない返事を返す。
風を浴びながら時間を過ぎるのを待つのも良いかもしれない、と思ってしまったからだ。
風のように清々しい"友達"が迎えに来るを…


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