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春に囀ずる
【女性向け 官能小説】

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春を告ぐ-1

泣きじゃくるその人を見たのはもう何度目かになっていた。


見かける度、自分の運のなさを呪う反面、見慣れていけばやけに気になっていく自分を、もう無視できなくなっている。


そんな……、一方的な出会いをきっと彼女は未だに知らない



バイト先の店長はイイ人でこだわりもある店だし何より本人が妥協しない

だからこそぶつかる人間も多かった

はじめはそうやってぶつかった人間の誰かなんだと思ってた

見つかりにくい隅の方でぐすぐす鼻を啜る人を見たときに思ったのは、またか…だった

――店長コワ面だし泣かされたんだろーな

ゴミ捨てにくいなぁとか思いながらいつ泣き止むのか面倒に思い始めた頃、いきなり声がした

「……くっそぅ……!!!やってやるわよ!ナメられて終われるか!」

ぐしぐし顔を乱暴に擦りながら前を見据える女の人の顔は、メイクもぼろぼろでハッキリ言って見目はよくなかった

ただ、あれがキッカケだったのはわかる

今思ってもなんで惹かれたのかもわからないけど、ただアレがキッカケだったんだ

ただ言うなら、……あの目に見つめられたらどんな気分なんだろう、と思った

そのくらいその人の目はキラキラと光って、ただ前を向いていた

ただ単に涙がネオンに反射してキラキラとしていただけなのははっきりとわかっていても、妙に惹きつけられる目をした人だった


次の日からバイトしながら彼女の情報を仕入れていって、……そのうちに店長がだんだんと心を許していくのがわかったとき、驚いた


店長はこだわりが強い

その店長に納得され認められるっていうのはなかなか難しい。


頻繁に足繁く通う彼女は仕事もだんだんと上手くいっていくようで、こっそり泣く姿も見なくなった

顔見知りになりバイトの自分にも声をかけてくれるその人は紗英さんといった

「えーっと、何くん?」
「ハルツグです」
「どんな字?」
「……うぐいすって書いて、ハルツグ。当て字」

そう言うと紗英さんは笑った

ふうわりと

いつも誰かに告げる度からかうような笑いじゃなくて

「鶯って春告げ鳥っていうからだね」


――笑うとこんなに柔らかい人なんだ

そう思った

初めて見たときは泣いてばかりのその人を正直、情けないなと思った


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