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thoroughbred
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thoroughbred-4

***

いくつかの駅を経ながら電車に揺られていると、あることに気付いた。

電車がどんどん混んでいくこと。
そしてその比率はどこにでもいるようなおっさんが八割以上を占めていた。

そしてそのおっさん達は、新聞を持っていたこと。

「…」
ふと桃絵さんの顔を見ると、下を向いて忙しなく手を動かしていた。


その真意に気付いてしまった。


だから、見る乗馬、なのか。


「桃絵さん」
「光一くん!」
「…」
「…」
お互い見つめ合ってしまう。
桃絵さんは顔を真っ赤にして大きく目を見開いている。
その目は濡れていた。
「…はい」
「ごめんね…もう気付いてると思うけど、乗馬じゃないの」
「…競馬、ですかね」
「…うん」
しばしの沈黙の後、桃絵さんは切り出した。
「…軽蔑するよね、嘘ついて。しかも競馬なんか」
桃絵さんはすごくしゅんとしていた。
「いえ、気にしてないです」
「…え」
桃絵さんが驚いたように瞬時に顔を上げた。
「実は俺も嘘ついてました」
「…」
桃絵さんは俺の顔をじっと見ながら次の言葉を待っている。
「俺、乗馬なんて興味ないんです」
「…」
「ついその場しのぎで言っちゃって。すいません」
「…」
「でも、競馬には興味があるんです」
「…え?」
これは決して嘘ではない。
「小さい頃から親父がテレビで観戦しているのを見てきたし、友人の中に競馬好きがいて、熱く語ってくることもよくあったんです。だから俺は本当に、いつか競馬に行ってみたかったんです」
「そう…なんだ」
「だから、その機会をくれてありがとうございます」
俺が笑顔でそう言うと、桃絵さんも照れたように笑った。
「ありがとう、光一くん」


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