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エンジェル・ダスト
【アクション その他小説】

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エンジェル・ダストB-4

 大学での検証を終えた佐倉達は署に戻ると、大河内の家族である妻の須美枝と息子の豊と面会した。
 品の良い顔立ちと身なりの妻と息子だと佐倉には映った。が、その顔色の悪さは、薄暗い遺体預かり所でもはっきり分かるほどだ。

「ご主人に間違いないでしょうか?」

 宮内は遺体の白い布に手を掛けるとゆっくりと捲り上げた。須美枝は、現れた顔を喰い入るように見つめて絶句した。

「…間違いありません…父です…」

 息子の豊が絞り出した声は震えていた。須美枝は何も言わず、ただハンカチを口許に当てて嗚咽を漏らしている。

「ぐ…う…うう……」

 妻と息子のやるせない声が小さな部屋に響く。佐倉と宮内は、いたたまれなさと同時に容疑者への憤りが湧き上がっていた。

「大河内さん…突然の事に、辛いとは思いますが私の話を聞いて頂けますか」

 佐倉の言葉に、須美枝と豊は目を真っ赤に腫らしながら顔を上げた。

「ご主人ですが、何か人に怨みを買うような事はなかったでしょうか?」
「それって……父は自殺したのでしょう?」
「いえ。ご主人は数日前からある研究機関の依頼で分析作業に携わっておられました。その作業はまだ中途だったそうです。
 これは大学関係者の証言なんですが、そんな方が自殺されるでしょうか」
「…すると…し、主人は…殺されたのですか?」

 須美枝は、信じられないという表情で佐倉を問い詰める。

「…少なくとも、私はそうみています。ですから教えて頂きたい、ご主人がどのような方だったのかを」
「…主人は…大学教授ですから、教授会や…専門の学会などで…良くは思われていない人も…居たでしょう…しかし…」
「殺されるほどの怨みを買うとは思えない訳ですね」

 須美枝は頷いた。

「では、プライベートではどうです?友人やご近所の知り合いなどは」
「…若い頃は大学時代の友人などがよく訪ねていらっしゃいましたが…5年前に今の大学に移ってからはまったく…」
「父は近所付き合いもほとんど母に任せ切りで…」

 一応、調べる必要はあるが、話の感触からいって怨恨の線はないと佐倉は感じていた。

「それから…申し上げ難いのですが…」

 佐倉は、真剣な顔でそう前置きすると、須美枝と豊の顔を交互に見つめた。

「ご主人を、行政解剖させて頂きたいのです」
「………」
「お気持ちは察します。早くご主人をご自宅にお連れしたいのは、ご家族なら当然です。
 ですが、他殺の可能性が有る以上、死因を特定するのがご主人のためという事も考えて頂きたいのです」

 佐倉は、深々と頭を下げた。


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