投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『はかないダイヤモンド』
【その他 その他小説】

『はかないダイヤモンド』の最初へ 『はかないダイヤモンド』 9 『はかないダイヤモンド』 11 『はかないダイヤモンド』の最後へ

『はかないダイヤモンド』-10

「もう、いいよ」

 やがて、堤が疲れたような口調で言った。

「俺が悪かったよ。俺はお前の足を引っ張っていた」

「何言ってんだよ、お前…」

 堤の言葉が頭に入ってこなかった。

「お前は面白い。ここまで来れたのも、全てお前の力だ。俺なんかいなくても一人でやっていけるだろう。俺みたいなのが、お前みたいになろうってのが無理なんだろうさ」

 ずうっと二人でやってきた。
 ここまで来れたのは俺の力じゃない。
 二人の力だ。
 どんなに辛い時も、苦しい時も、俺達はコンビだった。
 友達だった。

「お笑い刑事は、今日で解散だ」





 堤が楽屋を出て行ってから、一人で床に座りこんだ。
 しばらくそうしていると、たまらない孤独感に押し潰されそうになって、恵理子に電話した。

―こちらはAUお留守番サービスです…

「クソが! どいつもこいつも…」

 一人で怒声を上げて楽屋の壁を思いっきり殴った。
 壁あっさりと穴が開いた。
 壁にすら相手にしてもらえないような気がした。

 笑いはみんなを幸せにするんだ。
 
 今はその言葉が酷く空虚に感じた。

 じゃあ、なんで恵理子も堤も俺を追いてっちゃったんだよ。





 スタジオを出ると、辺りはすっかり暗くなっていて、湿った生暖かい風に肌が汗ばむのを感じた。


 夜の賑わいを見せる通りを歩きながら、ケータイのメモリーに登録されている奴に片っ端から電話をかけた。

―なになに? 坂田君、また面白い話してくれんの? ぎゃはは。

―うん? 相談があるだと? またどうせネタだろうが。

―ごめん、今笑う気分じゃないから、また後にしてくれる?

 どいつもこいつもクソばかりだ。
 俺は自分のケータイを思い切り地面に叩きつけて、めちゃめちゃになるまで踏みつけた。
 踏みつけながら、いろんな事を考えた。
 恵理子の事、堤の事、今までの自分の事。

 何度目かにケータイに足を振り下ろした時、砕け散ったケータイの残骸に足をとられて、コントをしている時にも見せたことがないくらい情けなく倒れた。

顔を強く打ち付けたアスファルトがひんやり冷たかった。


『はかないダイヤモンド』の最初へ 『はかないダイヤモンド』 9 『はかないダイヤモンド』 11 『はかないダイヤモンド』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前