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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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高崎竜彦の悩み 〜恋語り〜-5

「弟さんが幸せになるのって、どれくらいかかりそうです?」
 首をかしげて、俺にそう尋ねてきた。
「そうだな……早くて一年。少なくとも、高校を卒業するまでは」
 血を分けた弟とはいえ年が離れているし、俺は保護者を兼任してる。
 俺としても龍之介と美弥ちゃんの仲を認めるのにやぶさかじゃないが、いくら何でも学生結婚は許可が出せないからな。
「近くにいながら一年もしくはそれ以上の間好きでいてくれなんて身勝手な理屈、ほざける訳ないだろ?だから待山さん、俺以外の男に目を向けた方がいい」
 これが、俺としては精一杯の警告なんだが。
 ところが彼女の答は、俺の予測を上回っていた。
「なら、待ちます」
 ナヌッ?
「失恋って、つらいんですよね」
 待山さんは俺を見て、にこりと笑う。
「二十歳の時に、彼氏を友達に寝取られちゃったんですよ。それでしばらく恋はしないって決心してたんですけど……高崎さんの事、好きになっちゃったんですもの」
 わぁ、そんな過去があったんデスか。
「四年も恋をしなかったんですから、今更一年二年伸びた所でどうって事ないです」
 くすり、と待山さんが笑った。
「こういう風に言ってくれるって事は……高崎さんこそ、私の事好きなんですか?」
 ……ハレ?
 え〜と……え〜と、アレ?
「もしも高崎さんが私を好きなら、私はずっと待てます」
 そーいえば俺は一度も待山さんを嫌いとは……うぇ?あれ?
 おーっ?
「でも……私を好きだっていう証拠、欲しいです」
 ふと気が付けば、待山さんが擦り寄っている。
 あ……これだけ近づいても匂いがしないから、香水は付けてないんだな。
 見習いとはいえ、さすがはソムリエール。
 ワインの薫りに影響のあるもんは、極力排してる訳ね。
 そうぢゃねえ、え〜と……。
「駄目……ですか?」
 この体勢から想像できる『証拠』といったら……一つしかないじゃないか。
 ってオイ!
 待山さんが好きだっていうのは否定しないのか!俺!?
「むぅ……」
 ………………あ〜。
 嫌いじゃない。
 待山さんを繋ぎ止めておく『証拠』を残しておく事も、抵抗はない。
 とりあえず、認めちまえよ俺……待山さんに、惹かれ始めてるってさ。
「……待山さん」
「はい?」
「今から『証拠』を残すけど、本当に……待つ間に好きな男ができたら、そいつの方を向いていいから」
 言うなり俺は、待山さんを抱き締めた。
 薄くリップクリームを引いた唇に、自分のそれを重ねる。
 はぁ……女の唇の柔らかさなんて、忘れてたなぁ。
 こんな卑怯くさい真似をして、俺は待山さんを繋ぎ止めるんだ。
 ――唇を離すと、待山さんは指を伸ばして俺の唇をなぞった。
「他の男は見ません。弟さんの幸せを祈ってますし、それが終わるまでは今まで通りに職場の同僚として扱って下さい」
 ……負けましたよ、待山さん。


 弟が幸せになった時、まだ君が俺を好きでいてくれたら……その時、俺は俺と君の幸せの事を考えよう。


(了)


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