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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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伊藤美弥の悩み 〜初恋〜-5

美弥とお風呂に入った龍之介は、その体を隅々まで丁寧に洗っていた。
 しかし……視界に入る紘平のキスマークが、容赦なく嫉妬を煽り立てる。
 デコルテにはもちろんの事、それはお腹の方にまでいくつか散らばっていた。
 この一年、自分以外には触れさせなかったこの体に容赦なく印をつけた男。
 自分でさえ滅多につけない愛の痕跡を、遠慮なくばらまいていった男。
「……っくしょ」

 ぎゅ……

 一声呻いた龍之介は、泡にまみれた体をきつく抱き締める。
「ごめん……今、嫉妬で頭ぐるぐる」
 抱き締められた美弥は、目を見開いて驚いた。
「龍之介……」
「キスマークが消えるまでは、たぶん頭がぐるぐるしてる」
 そう言ってから龍之介は、重要な事に気が付いた。
 最後までは許していないと言ったが、紘平の元から逃げ出す際の事を覚えていないというのにどんな確証があって、こんな事を言えるのだろう?
「美弥。こ、こ、紘平の……いや、何でもない」
 覚えていたくない程ショックな出来事なのだから、尋ねる方がおかしい。
 そう考えた龍之介は、言いかけた疑問を飲み込んだ。
 だが美弥は、『紘平』の一言でそれを察する。
「……の」
 美弥は答を、龍之介の耳に囁いた。
「高遠君に抱かれてないって証拠、あるよ。体、ね……痛くないし、その…………ぬ、濡れ、濡れて、ないの」
 頬を真っ赤に火照らせた美弥が、小さい声で言う。
「…………あぁ。」
 納得した声で、龍之介は呟いた。
 もしも無理矢理奪われていたら、摩擦された女の子の大事な場所が傷付いて痛んでいるだろう。
 防衛反応で愛液の分泌が促される事があるかも知れないが、それならば秘部が多少なりともぬめりを残しているはずだ。
 しかし、美弥はどちらもないと言う。
 ――つまり、美弥は紘平に犯されていなかった。
 龍之介は、安堵のため息をつく。
 この言葉で、理不尽な嫉妬はいくらか和らいだ。
 疑問が解消された所で、二人は体を流して湯舟に浸かる。
 紘平のキスマークを見せないようにと龍之介の前に入り込んだ美弥は、後ろから伸びてきた手に抱き締められた。

 とくっ、とくっ、とくっ……

 龍之介の胸にぴったりとくっついた背中から、少し速い鼓動が感じられる。
 それが美弥に、安心感をもたらしてくれた。
「……逆、だね」
 くすりと笑い、美弥は言う。
「こないだは、私が支えてたのに」
 龍之介は口元を緩めると、美弥の肩に顎を乗せた。
「互いが支えて欲しい時に支え合う。それでいいじゃない」
「……うん」
 その言葉が何だか無性に嬉しく、美弥は口元を綻ばせる。
 そして首を捻ると、龍之介の唇を求めた。
 この柔らかくて美味しい唇を紘平が味わったのかも知れないと思うと胸がちくちくしたが、龍之介はそれを打ち消して美弥にキスをする。
 ふと目を開けて美弥を見下ろすと、美弥は胸を手で隠していた。
 ちょうどキスマークのある辺りを手で隠す事で自分の嫉妬を和らげようとしているのだと、龍之介は気付く。
「……そんなに気ぃ使わなくていいのに」
 唇を離し、龍之介はそう言った。
 そして美弥が何か言うより早く、再びキスをする。
「っ……」
 自分が望んだ物よりも、優しくて情熱的なキス。
 美弥は目を閉じ、キスを貪った。
「ふ……」
 唇が離れると、寂しさが体を支配する。
 美弥は体を反転させて龍之介にすがりつき、再び唇を求めた。
 たっぷりと自分を慈しんでくれるこの男と触れ合える事が、今は何よりも嬉しくて贅沢に感じられる。
「ん……」
 再び唇が離れると、龍之介は切なそうな顔で美弥を見た。
「つらい思い、させたんだな……僕も、紘平も」
 言って龍之介は、美弥を抱き締める。
 いつ抱いても柔らかいくせに華奢で、愛しくて、かけがえのない存在。
「もう……」
 美弥は体をよじり、戒めるように呟いた。
「気にしないで。確かにまあ、泣かされた事もあるけど……一緒にいられる事の方が嬉しいから。だから、いいの」
 美弥は呟いてから、龍之介の様子を窺う。
「それより、ね……お願いがあるの」
「ん?」
 首をかしげる龍之介へ、美弥は言った。
「高遠君のした事……体の表面から全部、消して欲しい」


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