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十字路
【悲恋 恋愛小説】

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十字路-1

街角でその人を見つけた。
その人が、優しい眼差しを向ける先では
小さな子供がその人に両手を差し伸ばしている。
幸せそうなその人は、昔愛した人だった。

切ない思いが湧き上がる。
ずっとずっと会いたいと思っていた。
それなのに声を掛けることも出来ない。
今を幸せに生きるその人に、私にできることは何もない。
このまま立ち去ることしか出来ないのに
その人から目をそらすことができない。

その人は学校をやめ、両親が薦める道を歩むことを選んだ。
それはその人が決めたことだ。
旅立ちの朝、その人は私の部屋を訪れた。
部屋を送り出すときに、その人は始めて涙を見せた。

その人を送り出し、私は初めて自分のために泣いた。
嫌われたわけでもない、他の人に負けたわけでもない。
ただ、違う道を歩むしかなかった。
こんなに愛しているのに。

一人残った部屋で、膝を抱えて泣きじゃくる。
嗚咽が止まらない。どれほど泣いたかも分からない。
その人は、その人が書いた1枚の絵を置いていった。
「永遠に忘れない。」とサインがあった。

その人は、「誰のことも好きにならない。」といった。
私は、「あなたは私のことを好きになる。」といった。
よく夜景を見に行った。
その人は、「人を好きになるとは思わなかった。」といった。
プラトニックな関係だった。
それでもその人は私のことを愛していたと思う。

その人に気付かれることなく、そこを立ち去れたことが救いだった。
あの時と違うのは、其々に帰る場所があること。
帰り道の公園で、あの時と同じように膝を抱えた。
あの日、あの時と同じように涙が止まらなかった。

終り


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