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地図にない景色
【初恋 恋愛小説】

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地図にない景色-4

「あんた、何考えてんのよっ!?」
夕闇差し迫る公園に、あたしの怒鳴り声が響く。
急いで店を出たあと、あたしはそいつの腕を引っ張って、ここまで走って来たのだった。
 おかげで、息が苦しい。 心臓がバクバクするし、口の中で鉄を舐めたような嫌な味が広がっている。
(昔はこれぐらいじゃ、汗一つかかなかったのに…) まさか、日頃の運動不足を、こんな形で認識するとは思ってもみなかったあたしに対し、男は至って平然としたものだ。
 あたしと同じ距離を同じスピードで走ってきたはずなのに、息一つ乱していない。
 正直、それだけで充分憎らしいというのに、男は、「何が?」
 などと聞いてくる。
「何が、じゃないわよ。あんた、自分のしたことわかってるの!?」
「…買い物」
と、ぼそりと呟いた。
「そうじゃなくて――!」「それはそれとして、なんか、喉乾かない?」
言い掛けたあたしの口を無遠慮に塞いで、男が言った。
その手を無理矢理引き剥がして、あたしは男を睨み付けた。
「あんた、何言って…」
「俺は乾いたんだけど、君は?」
「それは乾いてるけど…」「じゃあ、決まり。そこのベンチで待っててくれる」言い残して、男はあたしを置いて、どこかへ行ってしまった。
多分、自販機でも探しにいったのだろう。
 話をはぐらかされるかたちとなってしまったあたしは、当然おもしろくない。よっぽど追い掛けて、その背中に蹴りをくれてやろうかという考えが一瞬、頭を過ったが、そこはぐっと堪えた。
曲がりなりにも相手は、あたしを助けてくれた恩人だ。恩を仇で返すような真似はするなと、あたしは幼少の頃から耳にタコが出来るほど、母親から言い聞かされている。
大体、花も恥じらう16の娘が、そんな野蛮な行為に及ぶわけにはいかない。そう自分に言い聞かせて、あたしは言われた通り、ベンチで男の帰りを大人しく待つことにした。
草サッカーに励む子供たちを眺め、待つこと暫し…男が戻ってきた。
男は左手に持ったスポーツドリンクをあたしに投げて寄越すと、自分はさっさと缶コーヒーに口をつけ始めた。
仮にも乙女であるあたしに選ばせようともしない。「何?」
あたしの意味ありげな視線に気づいてか、男が言った。
「…別に」
 と、誤魔化してあたしも缶を開けた。
「…肉まん食べる?」
「いらない」
「そう。なら、いいけど」言って、あたしの隣にどかっと腰を下ろすと、今度は肉まんに噛り付く。
よくもまあ、あれだけ走ったすぐ後に、そんなものが食べられるものだ。
感心するやら呆れるやらのあたし。
「やっぱり、食べる?」
その視線を勘違いしてか、男がまた訊ねてきた。
「だから、いらないって」「でも、物欲しそうな顔で見てたけど」
「気のせいよ。てか、人を乞食みたいに言わないでくれる」
「違うの?」
「違うわよっ」
「万引きしてたのに?」
「それは…」
反論する言葉が見つからなかった。理由はどうあれ、あたしが万引きをしていたのは事実だ。下唇を噛む。
「冗談だよ…」
男が笑った。自分の言動を少し、後悔するみたいな笑い方だった。


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