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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(後編)-26

「そして あ奴だ…」

さくらの心臓は痛いほどに打った。そう、黷は前回の復讐をしようというのだ。黷は自分を殺すことより、自分が絶望に叫喚する声が聞きたいのだ。

「あ奴の体内に 千あまりの人間の魂を移した…あ奴の体が破壊されれば それらも死ぬる…」

さくらは、冷たいものが背中を流れ落ちるのを感じた。

「両方助けろなどと 戯言を言うなよ…此度は吾が直々に手を下す…裏切り者も 小賢しいまやかしも無い」

そして、黷がくいっと指を曲げると三人を磔にした十字架を根元から曲がった。そのまま根元が折れれば、彼らは抗う術もなく頭から地面に激突する。同時に害を捕らえている触手も同じように空中に突き出された。

「お前は…かわいそうな奴だ…黷!」

さくらはキッと黷を見据えた。

「そうか…お前は愚かな奴だな…女」

冷たい薄笑いを浮かべて、彼はさくらに歩み寄った。

「ほら…早く決めぬと、落ちるぞ」

「黷…」

さくらは、その瞳を真っ直ぐに見返して言った。

「お前が何万人の命を奪おうと、何度平和な暮らしをぶち壊そうと、私達を根絶やしにするために幾つの計画を立てようと…お前に世界は渡さない。世界は、お前にひれ伏したりしない!」

黷はさくらの前に掌を突き出した。その内の一本を折る。
「お前は私に、自分を憎んでほしいんだろう…それしかお前は知らないから。一番強い感情は、憎しみだと思ってるから!」

黷は答えず、もう一本が折られた。

「でも、私はお前を憎んだりしない!愛することも出来ないけど…お前が心からかわいそうだ、黷!」

もう一本。
「哀れんでくれと 吾が頼んだか?」

「人間に憧れて、生あるものに憧れて、それでも近づくことが出来ない…だからお前は、憎むしかなくなっちゃったんだ!愛していたからこそ!」

「何だと…?」

表情を失っていた黷の顔に、軽蔑と怒りが表れた。

「吾が 人間どもを愛する? 私利私欲にまみれ 同属同士で飽かず殺し合い 自らが生み出した穢れの中で転げまわる 非力で傲慢な人間どもを 愛するだと!!」

自分を見つめ続ける瞳に、耐え切れなくなって黷はさくらを蹴り飛ばした。

「人間なぞ 滅びればよいのだ!吾らに世界を明け渡せばよい! 」

うずくまるさくらに、黷は詰め寄り、怒鳴り散らし、鞭に変化させた左手でさくらを何度も、何度も打ち据えた。

「こんな世界が 美しいだと? 自ら世界を穢しておいて 吾らに 世界を穢すなと ほざくのか? 貴様らは昔からそうだ! 物事の美しいところだけ 自分のもののように 声高に言う! 醜いものを見ようとせず 穢れを受け入れようとせず それが豊かな生活だと豪語して たどり着いた世界が これではないか!」

その声が、怒りから悲しみへと変わっていくのが、さくらには感じられた。


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