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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(中篇)-20

「悪かった。私が頼んだことが、あのようなことを引き起こすことになるとは」

「いや…さくらも己も、気にしては居ない」

青嵐会の本部の闇を暴き、澱みを助け、狗族に刃を向けた。客観的に見れば、あの日、彼女がしたのはそういうことだ。そして、この戦を最後にと、予告された青嵐会の解体。

あのせいで、狗族たちのさくらを見る目が変わった、というのは懸念のし過ぎかもしれない。しかし違和感を覚えるものなら大勢いるだろう。八条さくらは救世の命を負った、たしかに類稀なる戦士であるかもしれない。しかし、それだけで、彼女にこれ以上の勝手を許す理由になるのだろうか?

そういう声が、聞こえないわけではない。そういう声に向って飃が、さくらはただ、愛しすぎてしまうだけだと、そう言ったところで…理解できるものも居ないだろう。

覚は“憎しみが欠如”していると言い、飃は“愛が過剰”過ぎると言った。表裏一体のその感情は、天秤の左右の皿に乗った重石のように、時に傾き、時に均衡を保つことで人間の正気を保つ。しかし、今彼女の天秤は“愛”に傾きすぎている。このことが、この戦いにおいて彼女にどういう役割を与えるのかは分からない。しかし、その役割が敵を介抱し、寝首を掻かれるというものならば願い下げだ。

彼は、さくらの中のあなじを消し去ったことを後悔しては居ない。しかし、そのせいで彼女の中の憎しみという感情―時にはそれが、敵や、過去や、悲しみと対峙したときに自分を護る盾になることがある―を消し去ってしまうことになってしまうとは想像もつかなかった。

自分のしたことは正しかったのだと思いたい。しかしその一方で、その欠如が重大な何かを引き起こすような気がして、彼はただただ、それを怖れた。

去り際に

「青嵐にも、このことは話した」

覚義は、酷く言いづらそうに、その言葉を口にした。飃は彼に背を向けたまま、目を閉じて言った。

「知っている」

――震軍、大将飃、及び飃八条さくらの二名は、市街での戦闘要員には加えない。



青嵐の気遣いなのか、それ以外の理由があるのか、彼女は聞き返さなかった。いつものように強く、笑っただけだ。

その心の中に、彼女が隠した感情を、飃は知っている。知っていたが、それを暴こうとは思わなかった。その激しい想いが、彼女を内側から燃え上がらせ、やがては…灰にしてしまうかもしれないと知っていても。



さくらが、澱みと会話を終えて出てきた。応接間は、すりガラスで囲まれた小さな一室だ。彼女は澱みをそこに休ませ、戸を閉めると、門の番人のようにそのドアの下にしゃがみこんだ。

「ふ〜…どしたの、そんな怖い顔して」

「辛くないか?」

え、と見上げた彼女の顔を見下ろした飃の表情が不安げなものに変わった。

「辛くないよ。今戦ってる皆のほうが、ずっと辛いはずだもん」

飃は、そう言うさくらの顔を見つめて、彼女の正面に腰を下ろした。


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