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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(中篇)-1

―わからないことが多すぎる。

山本は歯噛みした。

8月20日、深夜2時

警察に封鎖されたかなり広い区域で起きていると思われる戦闘。多くの報道陣や野次馬が、その戦闘の様子を一目見ようと詰め掛けていた。しかし、付近で一番高いビルに上っても、ヘリをチャーターして上空を飛んでも、その戦場を垣間見ることも出来なかった。

彼らの行く手を阻む、強力な障壁がある。

その障壁の向こうに目を凝らしても、景色はまるで霞がかったようにぼんやりとしたものにしか見えない。その、霞の障壁を更に取り囲むように敷かれた厳重な警備の境界線の外側で、人間はただ待つしかなかった。

あの後、現場に居合わせた青年の行方は、どうしてもつかめなかった。大学も、アパートの場所も突き止めたが、彼らの居場所はわからない。ただ、アパートの玄関には、URLの書いた紙切れが貼り付けてあった。

アクセスすると、そこには、得体の知れない黒い物体と、あの日彼らを助けに現れた少女が戦っている様子を写した動画が後悔されていた。鮮明な映像とはいえないが、彼女であることははっきりとわかる。

その動画に案内することで、あの青年二人は自分達に何を伝えたかったのだろう?何を伝えてほしいと望んでいるのだろう?

自分達の無知と無力を身にしみて感じさせるような―逆に言えば、未知なるものを目の前に手を触れることも叶わない探求者のような焦燥感の中で、彼らはただ、何処からとも泣く聞こえる奇妙な詠唱に耳を傾けているしかなかった。

絶えず聞こえるその力強い歌声は、同じ旋律の繰り返しというものがない。何とも不思議なメロディーで、歌詞も理解できる言語で歌われては居なかった。この混乱に乗じて、録音した歌や経をスピーカーで流す、新手の新興宗教が現れたのかとも思ったが、そうではないと山本に確信させるある種の力があった。その力を言い表す言葉を、昔の人間なら知っていたのかもしれない。

政府の見解は、生物兵器を有する反政府団体によるテロ、とのことだった。自衛隊の特殊部隊が、その掃討にあたる、と。

―誰が信じるのよ、そんな話。

カメラに向って、深刻な表情で政府の見解を鸚鵡(おうむ)のように繰り返しながら、山本は思った。自衛隊がこんな歌を歌える?いや、そもそも、人間には、こんな歌、歌えないわ。

そして山本の頭の中で、いつもあの映像が閃く。眩い光の納まったあと、消えた黒い大きな化け物。そして、それと対峙していた少女。彼女に向って、悲痛な声で叫んだ少女。

霞の向こうに飽かず目を凝らす人間達は、

「一体何が起ってるの…」

と呟くしかなかった。


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