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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(前編)-4

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8月19日、午後12時半。

英澤茜は、腹に手をやった。

数分前にそうした時と同じように、やっぱりお腹は温かかった。

彼女は、一面がガラス張りの大きな窓と、それを挟んだガラス板の檻に閉じ込められていた。遠く眼下にある街は彼女の記憶にある立派な街の姿をもはや留めていない。振り向けばそこには、装飾品も家具も、何もない空っぽの部屋と、その中心にある王座に座って彼女を観ている黷の姿が目に入るはずだ。絶対に振り返るものか。茜はそう思い、今度はペンダントに触れ、そしてまた腹に手をやった。

「八条さくらが死んだそうだ 英澤茜」

「そうかもね」

茜は、まるで砂の城みたいに壊れていく街の様子をじっと見つめながら言った。

「でも、そうじゃないかもしれない」

黷の望んでいる反応を見せることだけはしないように自分に言い聞かせた。こいつを楽しませることも、こいつの思惑通りになることもごめんだ。しかし、目下のところ、茜の思い通りに進む物事はひとつも無い。



戦いの始まる数日前、飆という名の狗族が茜を尋ねてきた。彼の名は知っている。彼は茜が自分の名前を知っていることに驚いたようだったが。

彼と契りを結ぶはずだった菊池美桜は、茜がまだ澱みの駒だった時に殺された女性だ。それに澱みは菊池美桜の死を道具にして、さくらからあなじをひき出そうともしたのだ。忘れるわけはない。

彼は、一つの鍵を彼女に渡した。

―獄を創った男の、灰の中から出てきた鍵だ。

それが何を意味するのか、茜が知っていることを飆も知っているようだった。

だから、彼女のもとに鍵を運んでくれたのだ。

「役に立ちそうか?」

飆は言った。

「ええ…」

素直に鍵を受け取る。金属には、まだ飆の手の暖かさが残っていた。しかしそれもすぐに冷めて、体温の低い茜の手の温度にすぐになじんでゆく。その奇妙な感覚に少し戸惑った後

「あの、ごめんなさい」

茜の口からは、自然とその言葉が出た。

「何故謝る?」

「謝って許してもらえるとは思わないけど…あたし、澱みの一員として、貴方の大切な人の命を…道具に使ったから」

飆はふっと笑って、下げた茜の頭に手を置いた。

「あいつの仇は討ったよ。罪悪感で故人を縛っちゃ、あいつが天国に行く妨げになっちまう」

そういう言葉を聞いたのは初めてだった。それから顔を上げると、飆は軽く手を振って去っていった。

茜の手に、文字通り“鍵”を残して。


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