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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(前編)-17

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カジマヤが決死の覚悟を決めて駆け出したのと同じくらいの時刻。神立は、聞き覚えのある音を聞いて、颶と颱の率いる兌軍を抜ける許しを請うた。



全く別のルートで進軍する7つの軍勢のうち、兌軍の進路は、黷の占領したビルの立つ埋立地の島を中心に遠回りで進むものだ。戦場となる地域は、幾つもの埋立地が橋や通路で繋がれた湾岸地帯だ。彼らには敵の本陣の対岸を回りこんでその真後ろの海域を確保する役割があった。

襲撃という襲撃も受けずに、彼らはビルに身を潜めながら慎重に進んだ。

その時、風を切る、鎌の音が聞こえたのだ。事情を知っている颶は、快く許してくれた。

「行ってきなさい。但し、夜の闇が深まるまでにもう少し進みたい…戻った時我々を見つけられないようなら、無理に探そうとせずに何処でも好きな陣営に加わってくれ」

神立は頷くと、ビルの屋上からひらりと身を躍らせた。



「どうだい“先生”、信じてた仲間に、ぶつ切りにされる気分はよォ!」

「相変わらず…えげつねえよな、お前のやり口はよ…」

“擾”その字があらわすように、この澱みのやり口はいつも同じだった。自分の手を煩わすことなく、仲間内で戦わせる。手懐けるように、その精神を撹乱して。

「いやぁ、蚩のやつが使ってた毒がねェ、こんな風に役に立つとは…あいつもなかなかどおして、やるもんだよなァ、え?」

夕雷を囲んでいるのは澱みではない。さっきまで厭を相手にしていた鎌鼬だった。彼らの首筋には、噛み付くように棘のついた首輪がはまっている。蚩という蟲使いが居たということは知っている。そいつは何か、ひとを居のままに操る毒を持っていたのだろう。

仲間達は容赦なく夕雷に刃を向けた。一方彼は鎖で防ぎ、錘(おもり)で反撃していたが、なにしろ多勢に無勢だ。切り傷が増えていくにつれ、その動きは精彩を欠くようになった。その様子に、擾はわざとらしい欠伸をしてみせる。

「ぁーあ、お前を見てるのも飽きてきたし…そろそろ、死ねよ」

指を鳴らす。その命に従って、鎌鼬はいっせいに鎌を放った。風を切る鎌の音が、いっせいに響く。

腕が上がらない。足が動かない。血を失いすぎた。

夕雷は目を閉じて死を覚悟した。何故か妙に―安らいだ気持ちで。

そのせいか、鎌が身体に突き刺さっているはずなのにちっとも痛くない。それどころか、奇妙な浮遊感さえ……

「ん?」

「何で覚悟しちゃうんだよ、夕雷!」

目を開けると、彼は神立の腕の中に居た。


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